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グリーン溶媒と水熱条件の基礎知識、LiFePO4からリチウムを回収する流通式水熱装置LIBリサイクルの水熱有機酸浸出プロセス開発の取り組み(2)(2/2 ページ)

本連載では東北大学大学院 工学研究科附属 超臨界溶媒工学研究センターに属する研究グループが開発を進める「リチウムイオン電池リサイクル技術の水熱有機酸浸出プロセス」を紹介する。第2回ではグリーン溶媒と水熱条件の基礎知識や著者の研究室で利用している流通式水熱装置について紹介する。

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水熱条件を利用する上での留意点

 水熱条件を100℃以上から臨界点までと定義すると、水熱条件では飽和状態(水の蒸気圧線上の条件)において必ず気体と液体が共存する(図2)。水熱条件で反応や溶解を十分進行させるためには反応場/溶解場にある対象物質が水熱条件の液体の水中に存在する必要がある。

 飽和状態であれば一滴でも液体が存在すればその圧力は水の蒸気圧を示す(図3)。すなわち、反応原料を全て反応器内に入れてから反応を発生させ、適当な時間後に反応生成物全体を取り出す操作法である回分操作の場合、耐圧容器内に存在する水の量が少なくても多くても、液体が存在し満液状態にならなければ水の量の多少に関わらず同じ温度と圧力を表す。

図2 飽和蒸気圧下における水の状態:気体と液体が共存する
図2 飽和蒸気圧下における水の状態:気体と液体が共存する[クリックで拡大]
図3 飽和蒸気圧下における水の状態:耐圧容器内の水の量が異なっても、温度と圧力は同じ値を示す
図3 飽和蒸気圧下における水の状態:耐圧容器内の水の量が異なっても、温度と圧力は同じ値を示す[クリックで拡大]

 回分式装置では充填する水の量と温度で装置内の水の状態は変化する。そのため、装置内に存在する水の量が正確に把握できなければ、所望の反応や溶解が達成されない可能性がある。他方、流通式水熱装置であれば装置内の状態を温度と圧力で制御するため、水熱条件の水の状態(特に水の密度の制御が可能)を正確に制御することができる。

 流通式水熱装置を用いた固体の処理では、水中での固体試料の分散性を良好に保つことに加え、ポンプでの送液や配管内での均質な状態の維持を実現する条件を把握する必要がある。それが可能であれば、エネルギー消費や経済性の観点で流通装置での操作を検討することが肝要である。

水熱酸浸出のための流通装置

 図4に著者の研究室で用いている流通式水熱装置の概略図を示す。フィーダータンクとスラリーポンプを接続するチューブがテフロン製、沈降分離機がSUS304製、それ以外はSUS316製である。沈降分離機のみ1inchであり、それ以外の配管チューブは全て8分の1inchである。

 スラリーの送液にはスラリーポンプを設置している。スラリーポンプには小型の撹拌機が付いており、スラリーの分散性を良好に維持している。反応部では熱電対に配管チューブを巻き付け、周囲を断熱材で覆ったものを2つ接続した。反応管を通過したスラリーは沈降分離機の中心部に流入するように取り付けられている。

 沈降分離機は4つのヒーターにより加熱され、反応部と同様に、周囲は断熱材で覆われている。沈降分離機によって固体と液体は分離され、液体のみが沈降分離機上部から流出し冷却器によって冷却される。このとき残存固体は沈降分離機下部に沈殿する。また系の圧力を背圧弁により制御した。またスラリー中の粒子の堆積を抑制するため、フィーダータンクの位置は回収部よりも高い位置に設置した。

 図5には流通装置により連続的にリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を処理した場合の結果の一例を示す。クエン酸を浸出剤とした水熱酸浸出を実施し、連続的にLi、鉄(Fe)およびリン(P)を水溶液中に回収できた。(次回へ続く

図4 水熱酸浸出のための流通装置
図4 水熱酸浸出のための流通装置[クリックで拡大]
図5 連続水熱システムを用いたクエン酸によるLiFePO4の連続水熱浸出における、Li、Fe、Pの浸出率(a)と浸出液(b)の写真
図5 連続水熱システムを用いたクエン酸によるLiFePO4の連続水熱浸出における、Li、Fe、Pの浸出率(a)と浸出液(b)の写真[クリックで拡大]

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筆者代表紹介

東北大学大学院工学研究科 附属超臨界溶媒工学研究センター 化学工学専攻 教授 渡邉賢(わたなべまさる)

東北大学大学院工学研究科附属超臨界溶媒工学研究センターにて、水熱・超臨界水を反応・分離媒体とした重質油改質、廃プラスチックリサイクル、バイオマス変換の研究を推進するとともに、超臨界二酸化炭素を反応・分離溶媒とした天然物からの有価物回収や二酸化炭素固定化反応に関する検討を進めている。化学工学会会員。The International Society of the Advanced Supercritical Fluid副会長。



参考文献:

[1]御園生誠、村橋俊一“グリーンケミストリー”講談社サイエンティフィク(2001)
[2]Sasaki,M.;Kabyemela,B.;Malaluan,R.;Hirose,S.;Takeda,N.;Adschiri,T.;Arai,K.:J.Supercrit.Fluids,13,261-268(1998)
[3]Cantero,D.A.;Bermejo,M.D.;Cocero,M.J.;ChemSusChem,8,1026-33(2015)
[4]Cocero,M.J.;Cabeza,A.;Abad,N.;Adamovic,T.;Vaquerizo,L.;Martinez,C.M.;Paro-Cepeda,M.V.;J.Supercrit.Fluids,133,550-565(2018)
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