検索
連載

AUTOSARの最新リリース「R23-11」(その2)AUTOSARを使いこなす(32)(3/3 ページ)

車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載第32回は、残り3カ月を切った東京開催の「AUTOSAR Open Conference 2024」の概要と、前回から引き続きとなる最新改訂版の「AUTOSAR R23-11」について紹介する。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

2.7 コンセプト#7(新規):Charging Interface [CP]

 バッテリー電気自動車(BEV)の充電用通信規格ISO 15118-2で規定されるメッセージの通信に対応するために、Charging Manager(ChrgM)BSWモジュールが追加されました。

2.8 コンセプト#8(継続):DDS Support on CP [CP]

 CPでのDDS対応の続編です。今回は、システムレベル設計情報(System Template)でDDSに関する設定情報を扱えるような拡張が行われました。また、SWアーキテクチャレベルでもPduRとの接続についての見直しが行われ、送受信キュー制御が追加されました。

2.9 コンセプト#9(新規):Service Discovery Control for Application Software [CP]

 CPでのSOME/IPのService Discoveryの制御は、これまでECU起動時に自動的に行われるoffer / subscribeと、BswMによる制御の2通りの方法で行われてきました。今回は、これらの制御をより緻密にApplication Layerから行うことができるような拡張(Service Interfaceの追加)が行われています。

2.10 コンセプト#10(継続):MACsec [AP]

 R22-11から継続して進められている、AUTOSARでのMACsec(IEEE 802.1AE)による通信保護対応ですが、R23-11では、AP EXP MACsec and MKA(MACsec Key Agreement protocol、IEEE-802.1X)Protocolという文書の形で、MACsecをどのようにAPで使用するのかについてガイドラインを提示しています。

 一般にMACsec動作自体はハードウェアにより実現されます。それを動かすには通常OSカーネルを介してMKAの処理が必要になります。このコンセプトでは、APスタック実装者とインテグレーターが連携しながら、APベースのECU上のMKAとMACsecの設定をできるようにするために、ハード、OSカーネルやスタック実装における各種前提の整理を行っています。

2.11 コンセプト#11(新規):Safe API for Hardware Accelerators [AP]

 High performance computing(HPC)で用いるデバイスの中には、演算高速化のために、あたかも数値演算ライブラリのように動作するハードウェアアクセラレータ(HWA)を搭載するものもあります。

 しかし、そのようなアクセラレータは、高速化に最適化されていても、安全な演算のために使えるとは限りません。

 そこで、APでの典型的な以下のユースケースに対して、既存のKhronos SYCL 2020 APIを用いた上位APIの導入およびマニフェスト拡張が提案されました。

  • データ保持および管理(Data storage and management)
  • タスク実行(Tasks execution)
  • デバイス管理および監視(Devices management and monitoring)
  • 利用可能なHWAリソースのconfiguration情報提供(Runtime configuration)※利用できないHWAリソース利用の防止

3.その他

 APのFunction Cluster(FC)の増減もありました。

 また、従来はFCの分類グループが以下のリストにある最初の2つだけでしたが、R23-11で再編整理され、さらに2つのグループが追加されています。

  • Platform Foundation FCs
  • Platform Service FCs
  • Standardized Application Interface FCs
  • Vehicle Service FCs

 現在のアーキテクチャを図2に示します。

  • ara::iam Identity and Access Managementを削除(SWS文書を、EXP文書の位置付けに変更)
  • ara::rds Raw Data Streamを追加
  • ara::shwa Safe HW. Accelerator後のリリースのために略称を追加(Reserved)(「2.11 コンセプト11参照」)
  • ara::nm Network Management: Platform Service FCからPlatform Foundation FCに位置付けを変更
  • ara::vucm Vehicle Update and Configuration Managementを追加(UCMから分離)
図2
図2 AUTOSAR Adaptive Platform ソフトウェアアーキテクチャ(論理ビュー)[クリックで拡大]

まとめ

 前回から2回に分けて、R23-11での新規機能追加などの変更内容をご紹介いたしました。また、AUTOSAR導入について考えることで見えてくるSDVの正体や規範的なものとなり得るもののごく一部についても、連載第30回から私見を述べさせていただきました。

 私が申し上げるまでもなく今は大変革期であり、「変えなければ失うものはほぼない」「主流であれば安泰」という状況ではありません。「変えたいこととその理由」「変えたくないこと、変えられないこととその理由」を、それぞれの立場で見直し表明していくことが求められるでしょう。

 先にご紹介したAUTOSAR Open Conference(AOC)は、講演者として登壇し発信する機会でもありますし(既に申し込み締め切り済み)、参加者として各種講演聴講やQ&A、そしてネットワーキングイベント(これらはまだ間に合います)のような機会は、「見直し」のためのインプットを得るための、そして、ご自身の理解や考えを他の方と交換して確証を深めるための、絶好の機会だと思います。

筆者プロフィール

櫻井 剛(さくらい つよし)イーソル株式会社 ソフトウェア事業部 エンジニアリング本部 エンジニアリング管理部 Safety/Security シニア・エキスパート/AUTOSAR Regional Hub in Japan(Japan Hub)

自動車分野のECU開発やそのソフトウェアプラットフォーム開発/導入支援に20年以上従事。現在は、システム安全(機能安全、サイバーセキュリティ含む)とAUTOSARを柱とした現場支援活動や研修サービス提供が中心(導入から量産開発、プロセス改善、理論面まで幅広く)。標準化活動にも積極的に参加(JASPAR AUTOSAR標準化WG副主査、AUTOSAR文書執筆責任者の一人)。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る