AUTOSARの最新リリース「R22-11」(その1):CAN XLの導入で何が変わるのか:AUTOSARを使いこなす(29)(1/3 ページ)
車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載第29回は、2022年11月24日に発行された最新規格文書である「AUTOSAR R22-11」について紹介する。
はじめに
前回から9カ月以上間が空いてしまい申し訳ございません。
AUTOSARがちょうど20周年を迎えた年であるにもかかわらず、2023年の年初数カ月は安全関連の業務(実は、最近はそちらの比率の方がAUTOSARよりも高いのです)やプライベートでバタバタし、やむを得ず、本連載だけではなく、AUTOSARやJASPARのWG活動への参加もいったん休止しておりました。春頃からは再開しましたが、たった数カ月のブランクなのに復帰時には思いの外浦島太郎状態がひどく、当惑しました。新規参加の方の感じる負担感として新たに見えてきたものもありましたので、今後、他の新規WGメンバーに標準化活動内容の進め方について説明する際に(実は毎年1〜2回そんな機会があります)、役立てていきたいと思います。
この休止期間には「第14回AUTOSAR Open Conference」(2023年5月11〜12日)が米国カリフォルニア州サンディエゴで開催されましたが、残念ながらこちらも参加できませんでした。なお、次回の第15回は、「Global software solutions for future mobility challenges(将来のモビリティの課題に対するグローバルソフトウェアソリューション)」の標語の下で、2024年6月11〜12日に東京で開催されるとのアナウンスが行われています。既に発表や論文投稿を呼びかけるCall for Papersの告知が公式Webサイトに掲載されていますので、積極的な参加をぜひともご検討ください(図1)。
なお、次の大きな節目のイベントは2028年のAUTOSAR創設25周年になるでしょうか。そのころに、AUTOSARという団体、標準化活動の形態や内容がどのように変わっているかは想像もつきませんし、その頃に私がどのようにAUTOSARに関わっているかも分かりませんが、何からの形で関わり続けられればと思っています。
さて、今回は、2022年11月24日に発行された「AUTOSAR R22-11(以下、R22-11)」の概要を紹介していきたいと思います。
AUTOSAR R22-11の概要
先述の通り、2022年11月24日に「AUTOSAR R22-11」(Internal Release Number:R4.8.0)が発行されました。
このリリースの扱いは「minor release」であり、10の新規コンセプトの導入(2つを除きdraft扱い)と1つの継続コンセプトでの変更およびさまざまな機能拡張が行われています(図2、表1)。
No. | Title / Summary | FO | CP | AP | 補足 | Status |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | CAN XL | x | x | x | 機能拡張 | valid |
2 | Unified AUTOSAR Timing and Tracing Approach | x | - | - | 機能拡張 (続編) | draft |
3 | MACsec | x | x | x | 機能拡張 | draft |
4 | V2X in AUTOSAR | x | x | - | 機能拡張 | valid |
5 | Firewall | x | - | x | 機能拡張 | draft |
6 | Service Oriented Vehicle Diagnostics (SOVD) | x | - | x | 機能拡張 | draft |
7 | DDS Support on CP | x | x | - | 機能拡張 | draft |
8 | SOME/IP Harmonization | x | - | x | 機能拡張 | draft |
9 | V2X support for China | - | x | - | 機能拡張 | draft |
10 | Secure Global Time Synchronization | - | x | - | 機能拡張 | draft |
11 | Deterministic Communication with TSN | - | x | - | 機能拡張 | draft |
表1 AUTOSAR R22-11での新規/継続コンセプト一覧(xは影響を受けるプラットフォーム) |
なお、表や文中に登場するプラットフォーム略称は以下の通りです。
- [FO]:AUTOSAR Foundation
- [CP]:AUTOSAR Classic Platform
- [AP]:AUTOSAR Adaptive Platform
CPでは、さらに10個のBSW(Basic Software)モジュールの追加が行われました(表2)。なお、現在の総数は約120個です。
また、APでも、ara::com API解説書での全体構成の見直しなど、変更が引き続き行われています。
それでは次ページから、AUTOSAR R22-11の11のコンセプトのうち前半の5つを紹介します。
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