AUTOSARの最新リリース「R23-11」(その2):AUTOSARを使いこなす(32)(2/3 ページ)
車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載第32回は、残り3カ月を切った東京開催の「AUTOSAR Open Conference 2024」の概要と、前回から引き続きとなる最新改訂版の「AUTOSAR R23-11」について紹介する。
2.AUTOSAR R23-11リリース内容(続き)
2023年11月23日に、AUTOSARの最新改訂版である「AUTOSAR R23-11」(Internal Release Number:R4.9.0)がリリースされました。AUTOSAR公式Webサイトでご覧いただけます。
6つの新規コンセプトの導入と5つの継続コンセプトでの変更およびさまざまな機能拡張が行われています(図1、表1)。いずれもValidation作業は完了しておりませんので、draft扱いであり、今後のValidation作業の中で問題が見つかれば、当然見直しが入ることとなります。
No. | Title / Summary | FO | CP | AP | 補足 | Status |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | Tracing for Adaptive Platform | x | - | x | 機能拡張 | draft |
2 | Secure SOME/IP-ACL | x | x | - | 機能拡張 | draft |
3 | Firewall in Classic AUTOSAR | x | x | - | 機能拡張(続編) | draft |
4 | Service Oriented Vehicle Diagnostics (SOVD) | x | - | x | 機能拡張(続編) | draft |
5 | Deterministic Communication with TSN | x | x | - | 機能拡張(続編) | draft |
6 | Time Validation | x | x | - | 機能拡張 | draft |
7 | Charging Interface | - | x | - | 機能拡張 | draft |
8 | DDS Support on CP | - | x | - | 機能拡張(続編) | draft |
9 | Service Discovery Control for Application Software | - | x | - | 機能拡張 | draft |
10 | MACsec | - | - | x | 機能拡張(続編) | draft |
11 | Safe API for Hardware Accelerators | - | - | x | 機能拡張 | draft |
表1 AUTOSAR R23-11での新規/継続コンセプト一覧(xは影響を受けるプラットフォーム) |
なお、表や文中に登場するプラットフォーム略称は以下の通りです。
- [FO]:AUTOSAR Foundation
- [CP]:AUTOSAR Classic Platform
- [AP]:AUTOSAR Adaptive Platform
CPではBSW(Basic Software)の追加変更も行われています(表2)※3)。
前回は4つのコンセプトをご紹介しましたので、今回はその続きです。これらは、筆者が所属するイーソルで提供している変化点調査報告のごく一部の抜粋ですが、Release Eventでの解説内容よりも細かい部分もございます。
※3)これらのR23-11の変更内容は、筆者が講師をつとめております「AUTOSAR Classic Platform(CP)入門トレーニング」でも早速反映を進めています。2024年4月には完了させる予定です(R23-11リリース後に既にご受講いただいた方にも資料をご提供予定です)。
2.5 コンセプト#5(継続):Deterministic Communication with TSN [FO] [CP]
R22-11から継続されている、AUTOSARでのIEEE 802.1 TSN対応の改善課題解消を目的としたコンセプトです。R22-11では、CPでのconfiguration項目の不足などに関する改善が行われました。
今回は、「PTP物理クロック調整」への対応が行われました。時刻同期が高精度で求められる用途では、Ethernet Switched Networkを介したlocal clockのmaster clockへの同調/同期が必要となりますので、Rate ratioの計算、複数PTPハードウェアクロックのサポート、PTPハードウェアクロック調整が導入されています。
また、IEEE 1722関連では、ストリームとレガシー通信(CANやLIN)のトンネリング対応が行われています。
そのために、IEEE 1722 Transport Layer(IEEE 1722Tp)モジュールが導入されました。関連して、L-SDUs(Link Layer Service Data Units)のルーティングのためのLinklayer SDU Routing(LSduR)モジュールが導入されています。
なお、SWS LduR chap. 1を見ると、現時点ではEthernetスタックとのIEEE 1722Tpの間のつなぎの部分のみ対応していること、そして、R24-11以降で見直しが入ることが示されています。ご関心をお持ちでしたらぜひご覧ください。
2.6 コンセプト#6(新規):Time Validation [FO] [CP]
安全観点では古い情報は危険をもたらすことがあります。むしろ「安全関連の情報には、原則として適切な鮮度が必要」と考える必要があります。
時刻同期のために、CPでは既にSynchronized Time-Base Manager(StbM)モジュールが用意されており、第15回でご紹介した、R19-11で追加された「Time Validation Support」の続編としての拡張が行われています。
ECU内の同期された時刻情報が安全であることを保証するために、(Primary)Virtual Local Timeの安全性をチェックするため、そして、それが保たれなくなった時の備えとしての、Fallback Virtual Local Timeが導入されています。また、時刻のずれ幅(Rate Jitter)およびそのふらつき幅(Rate Wander)による時刻の進み具合のチェック機構(rate validation)が導入されています。
余談ですが、本トピックを扱うWG-TSY(Working Group Time Synchronization)は、以前はメンバーが集まらず立ち上げに難航していたようですが、今回も2つのコンセプトに取り組んでおり、現在も活発に議論が行われているようです。
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