生成AIは製造業をどう変えるか 「日本で特に重要」とマイクロソフトが訴えるワケ:製造業DX
生成AIによって、製造業の業務はどのように変化するのだろうか。マイクロソフトで製造産業およびモビリティー担当コーポレートバイスプレジデントを務めるドミニク・ウィー氏に話を聞いた。
「特に日本では、生成AI(人工知能)の活用が重要になる」――。こう話すのは、Microsoft(マイクロソフト)で製造産業およびモビリティー担当のコーポレートバイスプレジデントを務めるDominik Wee(ドミニク・ウィー)氏だ。
マイクロソフトは、テクノロジープラットフォーマーとして製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)をさまざまな形で支えている。OpenAIとの長期的パートナーシップや新ソリューションの展開などによって、生成AIについてもさまざまな形で世界に先駆けて取り組んでいる。
なぜ、日本の製造業が生成AIを使いこなすことが重要になるのだろうか。マイクロソフトとしての考えと、日本市場での取り組みについてウィー氏に話を聞いた。
生成AIでも「責任あるAI」として安心して使用できる環境を
MONOist 生成AIが大きく注目されています。製造業でも積極的に活用しようという動きが出てきていますが、こうした動きをどう見ていますか。
ウィー氏 製造業にとって今は大きな変革期にあり、それに対応するための一つの手段として生成AIへの関心が高まっていると考えています。多くの企業で生成AIの活用をどのように加速させるかが一つのポイントになっていると感じています。
マイクロソフトも多くの製造業の相談を受けています。製造業に特化した要望として多いのは「開発リードタイム低減のために何ができるのか」というものです。製造業が取り扱う製品は年々複雑になり、ソフトウェアやハードウェアを組み合わせて新たな価値を生むことが求められています。こうした開発工程をシンプル化して新たなイノベーションを生む余力を作り出すために使えないか、という話が非常に多くあります。
MONOist 生成AIへの期待感が高まる中で、支援する立場のマイクロソフトへの期待も同時に高まっていると感じていますか。
ウィー氏 そう感じています。マイクロソフトは生成AIをサービスとして自由に利用できる「Azure OpenAI Service」をクラウド基盤である「Microsoft Azure」上で提供しています。これらをベースに、OpenAIとのパートナーシップなどを通じてさまざまな形で生成AIを展開しています。さらに、「Microsoft Copilot」によって各種業務アプリケーションに生成AIを組み込み、意識せずに簡単に生成AIを活用できる環境を提供しています。
生成AIで扱うデータの安全性を確保している点も重要です。生成AIの利用には、価値と同時にさまざまな懸念も示されています。その一つが知財の問題です。生成AIをより効果的に活用するためには、企業の中にある情報を学習させる必要があります。しかし、その情報には企業の機密事項なども含まれています。その知財を守りつつ生成AIの価値を作り出さなければなりません。
マイクロソフトは、ユーザー企業から出さずに生成AIを学習させる環境を用意しており、知財流出の心配なしに生成AIを強化することが可能です。もともと、マイクロソフトはテクノロジープラットフォームを提供する一方で「ユーザーデータはあくまでもユーザーのものだ」というポリシーを明確化しています。AIについても「責任あるAI」基準を設けて、ユーザーが安心して使える環境を整備してきました。企業データの取り扱いに関するこうした長い取り組みがあるからこそ、生成AIについても心配なく業務に使える環境を届けられると考えています。
生成AIは社内利用から製品に組み込む形まで広がる
MONOist 日本の製造業は保守的だといわれることも多いのですが、生成AIへの取り組みは非常に早いと感じています。従来の技術と生成AIとの違いをどう考えますか。
ウィー氏 あまり意識していなかった視点ですが、恐らく手に取れる具体性があったからではないでしょうか。2022年11月にChatGPTが登場してから、多くの人が実際にPCやスマートフォンで試し、その価値を実感することができました。そのため、具体的な成果をイメージしやすかったのでしょう。通常の技術であれば、どういう技術かを精査して、その上で試して実際の使用へとつながる流れで、それぞれのフェーズで多くの時間が必要です。生成AIについては技術そのものをイメージしやすく、個人で簡単に試せる環境があるために、前段階を飛ばして導入につながっていることが大きいと考えています。
その上で、多くの企業で「どういう使い方ができるか」を試す動きが出てきました。パナソニック コネクトは、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を基に開発した「ConnectGPT」を国内全従業員約1万3000人に提供しています。これは一般的な大規模言語モデル(LLM)だけでなくパナソニック コネクト独自のデータを学習させたモデルであり、独自の文脈なども理解して表現できるAIアシスタントとして活用され、多くの成果を生み出していると聞いています。
研究開発を効率化するための動きもさまざまな形で実績を生んでいます。半導体設計ツールを展開しているSynopsys(シノプシス)との協業で、チップ設計を効率化するために同社の設計ツールにマイクロソフトの生成AIを組み込んだ「Synopsys.ai Copilot」を発表しました。Siemens(シーメンス)とのパートナーシップでは、シーメンスの産業用ソフトウェアに生成AIを組み込んだ「Siemens Industrial Copilot」を発表しました。複雑なオートメーション用コードの迅速な生成や最適化などが可能です。
最近では、製造業が展開する製品に組み込む動きも増えてきました。2024年1月に開催された米国の技術見本市であるCESでは、多くの自動車メーカーが生成AIを組み込んだボイスアシスタントサービスを発表しました。ソニー・ホンダモビリティやVolkswagen(フォルクスワーゲン)、Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)などです。また、日本企業でも三菱重工業では、発電プラントの監視やデータ収集、分析機能を持つ運用保守サービス「TOMONI」に生成AI機能を組み込み、ナレッジ検索を容易にする取り組みを進めています。
こうした流れを見ると、まずは社内の一般的な業務での利用から始まり、個別業務に特化してアプリケーションに組み込んだり製品やサービスに組み込んだりする流れで活用が進んでいます。
その流れの中でより重要なのが、安全性やプライバシーの問題です。社内で利用するだけであれば問題ないかもしれませんが、ビジネスデータをそのまま製品に組み込んで提供する場合は信頼性が重要です。先ほどデータの安全性について説明しましたが、マイクロソフトは学習データの著作権を守るコピーライトコミットメントもあり、著作権者が望まないデータは利用せずに生成AIを学習させることができます。その際の法的な責任もマイクロソフトが担うことでユーザー企業のリスクを低減しています。こうした点もわれわれが評価を受けているところだと考えています。
言葉で指定すればすぐに設計デザインが生まれるような世界に
MONOist 生成AIの今後の展望をどうみていますか。
ウィー氏 生成AIについては、まだ旅は始まったばかりです。生成AI自体もさらなる進化があると考えています。使い方も今後さらに広がり、さまざまな業務領域で生産性を圧倒的に向上させるでしょう。遠い将来になるかもしれませんが、設計者が製品の仕様を自然言語で指示するだけで必要なスペックを満たしつつ過去の自社のデザインを踏襲した設計データが簡単に出来上がるような世界を実現したい。消費者が言葉で指定するだけでデザインなどが生み出される世界も実現できるかもしれません。
こうした将来像を直接形にしてイノベーションをけん引するのは、マイクロソフトではなく各事業を展開している製造業やそれを直接支援している業務アプリケーション企業だと考えています。シノプシスやシーメンスの例と同じように、マイクロソフトはテクノロジープラットフォーマーとして先進的な技術を使いやすい形でいち早く提供し、それを活用してもらうことでさまざまな業務に寄り添った新たな価値を生み出していきます。
そのために、それぞれの業務に寄り添ったパートナーシップの強化に力を入れています。シーメンスやシノプシスに加えてRockwell Automation(ロックウェルオートメーション)やABB、Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)など、既に製造業に特化した多くのパートナーシップがあります。今後もさまざまなパートナーシップを増すつもりです。
MONOist 最後に日本の製造業にメッセージを頂けますか。
ウィー氏 生成AIは特に日本では重要な技術になると考えています。労働者の減少は深刻化し、従来人手で行っていた業務が難しくなるのは明らかです。その中でこれまで以上の業務を行っていくためには、自動化が必須です。生成AIは自動化の入り口になる技術であり、生成AIを用いることで多くの業務を自動化できる可能性があります。どういう業務が自動化できるのかという点で、日本での取り組みには強い関心があります。そのためにもマイクロソフトが関わる事例をもっともっと増やしていきたいと考えています。
先ほども述べたように生成AIは簡単に素早く使えて、体験することでさまざまな発想が生まれてくる技術です。生成AI活用に迷っている企業は、まずは社内で従業員が活用するための環境を用意することから始めるべきです。そうすると、その価値や活用の発想が生まれ、次に業務の改善や新たな製品の価値創出などにつながってきます。まずはここから始めてはいかがでしょうか。
MONOist ありがとうございました。
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