コストも性能も満足するクラウドVDIが設計開発業務のデジタル化を実現:製造業DX
製造業のクラウドシフトが進む中、設計開発業務に欠かせない3D CADツールのクラウドVDIとして採用が拡大しているのがクラウドプラットフォームの「Microsoft Azure」だ。なぜAzureが選ばれるのか、事例も交えて解説する。
企業ITの世界ではもはや当たり前となっているクラウド活用が製造業でも加速度的に広がりつつある。以前は既存のオンプレミスシステムを重視する傾向が強かったが、コロナ禍をきっかけにこの状況は大きく変わった。特に設計開発領域についてはテレワークの普及と併せてオンプレミスからクラウドへの移行が進んでおり、製品品質の向上と市場投入の迅速化を実現している企業も現れ始めている。
製造業のクラウドを活用したデジタルエンジニアリングを支援
さらなる勢いを見せる製造業のクラウド活用の取り組みを支えているのが、世界中の企業が利用するクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」を展開するマイクロソフトだ。同社はIaaSとして無尽蔵で柔軟なITリソースを提供するAzureを軸に、「Microsoft 365」や「Microsoft Teams」といったコラボレーション&コミュニケーションサービスを提供するとともに、各種CAD/CAEソフトウェア、さらにはPLMシステムなどの幅広い製造ITソリューションと連携することで、クラウドを活用した製造業のデジタルエンジニアリングを促している。
マイクロソフトコーポレーション シニア HPC/AIスペシャリストの田中洋氏は「Azureを用いたデジタルエンジニアリングを通じて、製造業における製品の市場投入までの時間を短縮するとともに、新しいインサイトを引き出せるコラボレーションを支援することを目指しています」と語る。
Azureによるデジタルエンジニアリングを構成するさまざまなソリューションの中でも、とりわけ高い評価を得ているのがクラウドベースのVDI(仮想デスクトップ環境)サービスである「Azure Virtual Desktop」(AVD)を活用したCAD環境の仮想化だ。コロナ禍以前にもオンプレミスのVDIを運用する製造業はあったが、それらの企業がVDIをAVDに移行する事例が増えつつある。
複合機大手のリコーは、既存のオンプレミスVDIからAVDを用いたクラウドVDIへの移行を果たしている。同社の国内外の設計拠点には1万人以上が所属しており、コロナ禍でテレワークがメインになる中で既存のオンプレミスVDIは限界を迎えていた。AVDはこの問題を解決すると同時に、コストを抑えつつ柔軟で拡張性に優れた設計環境の構築にも成功している。
3D CADツールのVDI運用におけるAzureの“4プラスα”のメリット
3D CADツールのVDI運用におけるAzureの特徴として4つが挙げられる。
1つ目は、ダッソー・システムズの「3DEXPERIENCE CATIA」「CATIA V5」「SOLIDWORKS」、オートデスクの「Inventor」、PTCの「Creo」、シーメンスの「NX」といったグローバル大手ベンダー4社の3D CADツールがAzureで使用できることだ。このためオンプレミスで使い慣れた3D CAD環境をそのままクラウドに移行できる。
2つ目の特徴が、一つのWindows仮想マシンを複数のユーザーで利用するマルチセッション接続が可能なことだ。これは他のクラウドVDIサービスにはないAVDならではの機能であり、VDIのコストをより最適化しやすくなる。
3つ目は、Microsoft 365 E3/E5やVDAライセンス、あるいは Windows ServerのAzure Hybrid Benefit(AHB)など、既存のライセンスを生かしてAVDが利用可能なことだ。これもマルチセッションと同様にコストメリットをもたらす。既に、オンプレミスのVDIでWindowsを使用している場合はAVD移行時に既存のライセンスを引き継げることが多く、導入コストを抑制することができる。さらにAzure上には他にも予約インスタンスや節約プランというコスト最適化オプションが準備されており、一例ではランニングコストを7割削減し、30%以下に圧縮することもできる(RI 3年/Windows ServerインスタンスをAHB適用で8vCPU/32GRAMインスタンスを利用した場合)。
4つ目の特徴が、オフィス業務で広く普及しているMicrosoft 365などのさまざまなマイクロソフトソリューションとの連携しやすさだ。例えば「Azure Active Directory」を利用した各種の認証サービスにより環境のセキュリティを担保することが可能であり、Microsoft Teamsを利用する場合でもライセンス面、性能面で当然アドバンテージがある。
こうした4つの特徴に加えて、3D CADツールのVDI運用でAzureの評価が大きく高まるきっかけになったのが、2019年末〜2020年初頭に投入されたインスタンス「NVv4 シリーズ」と「NCasT4_v3 シリーズ」だ。
大塚商会 CADプロモーション部 CAD戦略推進課 課長代理の藤田昌弘氏は「NVv4 シリーズとNCasT4_v3 シリーズは、仮想マシンのサイズ調整に各種GPU仮想化の技術が利用できるようになるなど、設計開発業務に十二分に使うことができ、コストパフォーマンスも高いインスタンスであるとして導入が進むことになりました」と説明する。コロナ禍の影響で設計開発業務におけるテレワークのニーズが大きく立ち上がりつつあったことも採用拡大を後押しした。
最新のNVIDIA GPUを搭載したインスタンス「NVadsA10v5 シリーズ」が登場
NVIDIAのGPUは約2年ごとにアップデートを重ねている。マイクロソフトはこれに常に対応しており、現時点の最新GPUである「NVIDIA A10」が使えるAzure仮想マシンのインスタンス「NVadsA10v5 シリーズ」をリリースした。このインスタンスはNVIDIA A10とAMDのCPU「EPYC 74F3V(Milan)」を搭載しており、ベース周波数は3.2GHz、オールコアピーク周波数は4.0GHzというハイスペックを誇る。これにより、「NVIDIA Tesla T4」を用いるNCasT4_v3 シリーズに対してアプリケーションによっては1.5倍もの処理性能が得られる。
藤田氏は「大塚商会でもNVadsA10v5 シリーズでSOLIDWORKSのベンチマークを行いましたが、NCasT4_v3 シリーズよりも解析速度が格段に向上するなど、高性能ワークステーションに劣らない性能を確認できました。最新のGPUになったことに加えて、CPUの動作周波数がNVv4 シリーズやNCasT4_v3 シリーズよりも1GHz近く向上したことでCPUリソースを重視するCADの機能もより使いやすくなります。NVadsA10v5 シリーズはCADユーザーにとって非常にバランスが取れた実践的なインスタンスであると実感しています」と語る。
大手3D CADツールへのAzureの対応状況と、大塚商会による頼もしいサポート
AVDを利用する大きなメリットの一つは、3D CADツールのVDI運用がスムーズに行えることだ。具体的には、シーメンスのNXとPTCのCreoは、各ベンダーがAVDでの運用をサポートすることを明確に打ち出している。また、ダッソー・システムズのCATIA、SOLIDWORKSとオートデスクのInventorは、AVDでの運用は許諾上許可されており、動作も問題ないが、各ベンダーの直接サポートは提供されていない。
大塚商会 PLMソリューション営業部 プロジェクトPLMグループ 次長の長井尚史氏は「大塚商会は長年にわたり、国内におけるCAD導入とその支援において多くの知見とノウハウを蓄積しています。さまざまな3D CADツールの導入や運用をご支援する体制を持っているだけでなく、AVDを用いた場合の導入効果の提案から、導入支援、運用サポートを提供できる体制が整備されています。また、実際にAVD上で3D CADのパフォーマンスを体感できる無償トライアル環境も用意していますので、安心してAVD導入に向けた検討の一歩を踏み出していただくことができます」と強調する。
3D CADのVDI運用で国内製造業の採用が進むAzure
前述したリコーの他にも、国内大手製造業ではCADのVDI運用でAzureを採用するケースが続々と増えつつある。
ある国内大手自動車メーカーは、既に数百人以上の規模で3D CADをAVDで運用している。メカニカルシール大手のイーグル工業はAzureを用いたクラウドPLMを導入済みであり、これを起点にPLMのフロントエンドとなる3D CADの仮想化も進むと期待されている。長井氏は「製造業を含む幅広い業種において、大手企業はもちろん中堅/中小のお客さまでもAVDは広く利用されるようになりました。当社の年間の案件対応件数はリリースされた3年前と比べ大きく伸び、特に直近の1年間では対応件数は3年前の10倍を超えるまでに拡大しています。このことはAVDには多くの導入効果がある証です」と述べる。
今後マイクロソフトは、CADだけでなくCAEやPLMなどを含めてAzureを活用したデジタルエンジニアリングの導入を製造業向けにサポートしていく構えだ。田中氏は「Azureによるデジタルエンジニアリングで日本の製造業に貢献できるよう、最適なソリューションを提供し続けます」と意気込みを示す。
藤田氏も「大塚商会としてもAVDを軸にマイクロソフトと連携して製造業のお客さま向けのウェビナー開催なども含めた幅広い提案を行っていきます。何かありましたらぜひお声掛けください」と力強く語った。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2023年5月17日