中国で急成長するEREVはグローバル自動車市場の“本命”になり得るか:和田憲一郎の電動化新時代!(54)(1/3 ページ)
EVシフトが著しい中国で急激に販売を伸ばしているのがレンジエクステンダーを搭載するEREV(Extended Range Electric Vehicle)である。なぜ今、BEVが普及する中国の自動車市場でEREVが急成長しているのだろうか。さらには、中国のみならず、グローバル自動車市場の“本命”になり得るのだろうか。
EVシフトが著しい中国で、BEV(バッテリー電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)などのNEV(新エネルギー車、新エネ車)の販売が堅調である。その中で、PHEVに含まれるレンジエクステンダー車が急激に販売を伸ばしている。2013年頃に登場したレンジエクステンダー車のリバイバルは、古くて新しい現象であるが、なぜ今、BEVが普及する中国で勢いを増しているのであろうか。さらに、これは中国のみならず、今後、世界的な本命の一つとなるのであろうか。筆者の考えを述べてみたい。
EREVとは
レンジエクステンダー車は幾つかの呼び方がある。IEA(国際エネルギー機関)は、「Global EV Outlook 2024」の中でレンジエクステンダー車をEREV(Extended Range Electric Vehicle)と表現しているので、ここからはEREVに統一して表記する。
中国におけるEREVの販売状況を確認してみたい。中国汽車工業協会の発表によれば、2023年、中国国内で販売されたEREVは前年比173%増の73万台で、新エネ車市場の3%を占めた。
2024年に入ってもEREVは販売好調である。直近の2024年11月までの累計を見ると、新エネ車の国内販売台数1070万台のうち、BEVが620万台、PHEVが450万台で、PHEVの中でもEREVは108万台となり、新エネ車比率で10%を占めるまでに急成長している。
ここからはEREVについて説明したい。EREVは、BEVの課題である走行距離の延長を目的として、発電用の小型エンジンを搭載した車両である。EREVは、バッテリー残量が少なくなると、搭載された小型エンジンが発電機として機能し、バッテリーに電気を送ることで走行を可能にする。この際、エンジンは直接駆動力としては使用されない。もちろん、バッテリーには外部から充電ができる。このようなシステムであるため、PHEVの一種として分類されている。
EREVとの関わりからPHEVについても説明を加えておきたい。PHEVは、大型のバッテリーとモーター、さらにエンジンを備え、通常はモーターで走行し、バッテリーに蓄えた電気が少なくなるとエンジンが始動して発電機として機能したり、または直接エンジンが駆動力として走行したりできるシステムを搭載する車両である。なお、状況に応じて、モーター+エンジンでも走行することができる。またPHEVは外部から充電ができる。
EREVとPHEVとの違いは、EREVが直接エンジンを駆動力として用いないのに対し、PHEVではエンジンを発電機としてのみならず駆動力としても作動させられる点にある。このため、PHEVの方がより大きなカテゴリーとして捉えられ、EREVはその一種と考えられているわけだ。
EREVの歴史をひもとく
初期段階のEREVとして有名なのは「BMW i3」である。2013年に発売され、2022年に販売を終了している。当時、BMW i3にはBEV版とEREV版があった。EREV版は、647ccのDOHCエンジンを搭載しており、燃料タンク容量は9L(リットル)だった。EREV版の目的は、走行距離への不安解消のため、小型エンジンを搭載し発電機として活用したことにある。ただ、この車種では搭載されたエンジンと燃料タンクが小さかったため、エンジン活用による走行はかなり限定的であったようだ。
その後、コンセプトモデルではたびたび登場するもののEREVは下火となった。再び脚光を浴びたのは中国の新興自動車メーカーである理想汽車が2019年に「理想ONE」を発売してからである。上述のBMW i3に対して、理想ONEは、排気量1.2Lのターボチャージャー付きガソリンエンジンを搭載し、燃料タンク容量も55Lと大型化している。
この理想ONEは、EREVとして月販1万台を超えるヒット商品となり、EREVを世に広めるきっかけとなった。理想汽車はその後、バッテリー容量を拡大するとともに、エンジン排気量を1.5Lに引き上げ、EREVとして「L6」「L7」「L8」「L9」などを次々と発売している。
では、なぜ理想汽車はEREVを開発したのであろうか。ここからは筆者の推論であるが、新興自動車メーカーが新エネ市場に参入する際、商品企画としてどのポジショニングを狙うかは極めて重要である。BEVおよびPHEVユーザーの声を参考にして熟考したと推測される。その際、以下のような項目を考慮した可能性が高い。
- BEVユーザーが抱える電欠への不安をどのように軽減するか
- BMW i3のEREV版の課題を抽出(非力なエンジンと小容量の燃料タンク)
- 市場投入する車両のセグメントをどのように設定するか(小型車ではなく大型車)
- 内燃機関の開発経験がない中で、モーターとエンジンを両方活用する複雑なPHEVシステムを回避する方法(例:三菱自動車アウトランダーPHEVのような複雑なシステム開発に挑戦しない)
- 車両価格の低減(構造をシンプルにし、車両価格をBEVや競合PHEVよりも廉価に設定できるゾーンを見極める)
これらの検討結果を踏まえ、理想汽車は、排気量1.5L程度のエンジンにパワーアップし、燃料タンク容量も60L前後に大型化することでBMW i3の弱点を補完し、他社がまだ進出していないEREVの新たな市場に狙いを定めたと考えられる。つまり、理想汽車は2013年のBMW i3をEREV第1世代と位置付け、自社のEREVを第2世代として提案したのではないだろうか。
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