Simulation Governanceの活用カテゴリー「活用手法」の診断結果:シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(8)(3/3 ページ)
連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。引き続き、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていく。連載第8回では、活用カテゴリーの「活用手法」に着目する。
C8「不確定性手法」
次のC8「不確定性手法」は、タグチメソッドやシックスシグマ手法に代表されるロバスト設計や、モンテカルロ法、信頼性設計手法をどの程度活用できているか、という設問になります。この分布もC7と傾向は同じです。C7で3点であったところの半分が2点領域に移動したと見ればいいでしょう。実験計画法/設計探索も実施していない状況では、不確定性手法が広がることはないので、当然の傾向となります。
日本の場合、田口玄一先生が開発されて命名されたタグチメソッドは品質工学会を中心に発展してきているように見えますが、実際のところはまだ一部の企業での適用にとどまっています。熱心なリーダーがいて組織的に実施できている企業は、有効に活用しているのですが、残念ながら世代が変わったり、組織の優先度が変わったりすることで、活動が廃れてしまうという傾向が見られます。せっかく培われたタグチメソッドの技術も文化も組織も消えるか、ほそぼそとしか継続されないか、という状況になってしまうのです。まさに、ガバナンスの欠如という他ありません。ロバスト設計の技術ははやり廃りや、リーダーの好みで進めるものではなく、世代が変わっても担当者が変わっても製品が変わっても、組織のコア技術として成熟させていくべき技術なのです。
C9「代理モデル/AI」
次のC9「代理モデル/AI(人工知能)」の分布も、C7とほぼ一致しています。なぜなら、実験計画法などで生成されたデータがなければ、代理モデルも作成できないからです。昨今のデータサイエンスの勃興は、既に大量のデータが存在するあらゆる社会活動、人間活動に適用されてきています。エンジニアリングの世界においても、第一原理計算(=シミュレーション)から出発できるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の領域では、まさにデータサイエンスの最先端領域の一つになっています。
そうした世の中の大きなうねりの中で、CAE(エンジニアリングシミュレーション)の世界では、データサイエンスを指向したスピードが非常に遅く見えてしまうのです。研究機関や一部の企業の先進的な組織や優秀なエンジニアは素晴らしい仕事をしているのですが、こと実現場への展開となると、遅々として進んでいないというギャップが見えるのです。
最後の図は、今回のテーマである活用手法のイメージを分かりやすく示しています。過去の経験や従来のノウハウが通用しない、もしくは存在しない領域で設計を行うには、このようなデータ空間で思考することが求められます。「データサイエンス」という大げさな言葉を使わずとも、まずは、設計空間で考え、解空間で判断し、その結果を設計空間に戻して再検討するという、技法と思考プロセスを身に付けることこそが、出発点となるのです。
今回のまとめ
今回の活用手法に関連して、毎度参照している「デザインとシミュレーションを語る」ブログの該当する箇所は下記の通りです。あらためてお読みいただけると、さらに理解が深まることと思います。今回かなり、多くのリストになっているのは、活用手法の各テーマが非常に重要であることの証です。
- 第10回:ソフトウェア・ロボットの誕生
- 第14回:Zero Design Cycle Timeの衝撃
- 第15回:「設計とは最適化」の奥深い意味を教えてくれた技術者
- 第16回:スーパーコンピュータで行われていた大量の計算とは
- 第17回:最適設計支援ソフトウェアの衝撃的な登場
- 第18回:サンプリングって、偵察のことです
- 第19回:設計空間でシミュレーションを考える
- 第32回:品質に求める最高と安定と安心と
- 第33回:製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法
- 第34回:製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法
- 第35回:シックスシグマの意味
- 第36回:ロバスト設計の価値と方法論
- 第37回:タグチメソッドとシックスシグマ手法の使い分け
Simulation Governance診断にご興味のある方は、本連載を読んだ旨をコメントいただき、筆者プロフィール欄に記載のメールアドレスまでご連絡ください。 (次回へ続く)
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筆者プロフィール:
工藤 啓治(くどう けいじ)
スーパーコンピュータのクレイ・リサーチ・ジャパン株式会社や最適設計ソフトウェアのエンジニアス・ジャパン株式会社などを経て、2024年1月まで、ダッソー・システムズに所属。現在、個人コンサルタントとして業務委託に従事。40年間にわたるエンジニアリングシミュレーション(もしくは、CAE:Computer Aided Engineering)領域における豊富な知見やノウハウに加え、ハードウェア/ソフトウェアから業務活用・改革に至るまでの幅広く統合的な知識と経験を有する。CAEを設計に活用するための手法と仕組み化を追求し、Simulation Governanceの啓蒙(けいもう)と確立に邁進(まいしん)している。
- 学会活動:
2006年から5年間、大阪大学 先端科学・イノベーション研究センター客員教授に就任し、「SDSI(System Design & System Integration) Cubic model」を考案し、日本学術振興会 第177委員会の主要成果物となる。その他、計算工学会、機械学会への論文多数 - 情報発信:
ダッソー・システムズ公式ブログ「デザインとシミュレーションを語る」
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件名に「Simulation Governanceについて」と記載の上、info@engineous-consulting.comまで直接メールご連絡をお願いします。
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