Simulation Governanceの活用カテゴリー「管理の仕組み」の診断結果:シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(9)(1/4 ページ)
連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。引き続き、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていく。連載第9回では、活用カテゴリーの「管理の仕組み」にフォーカスする。
シミュレーション・コンサルタントの工藤啓治です。今回は「Simulation Governance(シミュレーションガバナンス)」全体のあるべき姿につながる「管理の仕組み」の解説に入ります。
前回は「PIDO(Process Integration and Design Optimization)」がキーワードでしたが、今回は「SPDM(Simulation Process and Data Management)」という用語がキーワードになります。この用語の成り立ちを説明することで、今回の管理の仕組みの重要性をご理解いただけると思いますので、昔話的なお話に少しだけお付き合いください。
「SPDM」の成り立ち
筆者がSPDMに関わり始めた2010年ごろは、SPDMという名称ではなく、「SDM(Simulation Data Management)」というカテゴリーの製品が多少知られている程度でした。CADを管理する仕組みとしての「PDM(Product Data Management)」が存在していましたので、それに対比する形でのSDMという世界が少し始まっていたのです。
前職のダッソー・システムズでは、PDMを拡張したコンセプトである「PLM(Product Lifecycle Management)」を提唱していましたので、その概念をシミュレーションに拡張した「SLM(Simulation Lifecycle Management)」プロジェクトを始動したのが、ちょうど2010年でした。呼び名が違うだけで、製品/機能的にはSDMもSLMも同じと考えていいでしょう。説明を分かりやすくするために、SLMから発展した今の姿であるSPDMについてお話します。
図1は、ダッソー・システムズの「3DEXPERIENCEプラットフォーム」で用いられるSPDMの概念図となります。
SLM(もしくはSDM)の時代は図1のデータ管理系のみの機能で、プロセス管理系の機能はありませんでした。それでも、SLMが潜在的に必要とされている背景は十分にあったのです。当時「Why SLM?」と題したスライドを用い、潜在的な課題としてリスト1に挙げた状況がどの企業でも当てはまるのではないか? から出発して話を始めると、10人中9人は「うんうん」とうなずいていました。中には「全部当てはまるんだけど……。どうしてウチの現状を知っているんですか?」と聞いてくる方もおられるほどでした。まさに、これらの課題解決こそが、SLMに求められていたシミュレーションのデータ管理のニーズなのでした。
リスト1 CAEデータ管理の課題
- ファイルは個人PCのフォルダで管理
- フォルダ分けや命名、保存も個人任せ
- CADから結果に至るファイルのひも付けがない
- 類似モデルや類似解析を探すのに苦労
- モデルの変更履歴情報は残っていない
- 結果を確認する項目が担当者によって異なる
- 結果の判断や対策が担当者によって異なる
- 解析依頼すると経緯がブラックボックス
データ管理以外にも、もっと視点を変えた他のテーマにも潜在的なニーズがあるのでは? ということで、訪問先の皆さんにアンケートをお願いして得た結果があります。それが図2となります。これは、全14項目の質問について、“実施する場合を想定した優先度”として1〜10(低〜高)の数値を記入してもらった、15社45人による回答の平均値を図示しています。
全てが5点以上なので、どれもそこそこ必要性はあるということですが、特に、最初の6課題(リスト2)は、今でも重要なテーマばかりです。データを取得したのは、2011〜2013年にかけてですから、本質は10年前と変わっていないといえます。まさに、本連載で指摘している“この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場”の例といえるでしょう。
リスト2 SLMに求められる高優先度ニーズ
- 解析データのトレーサビリティー
- 熟練者の技術伝承
- 解析データ管理
- 設計変更影響度の可視化
- 解析データの共有や巨大ファイルの処理
- データの分析と可視化
このアンケートを各社で実施した後、いただいた結果を基に再度いろいろな議論をすることにつながり、こうした課題の背景や、生々しい実情とニーズの高さを理解することができたのは、SLMをプロモーションする上で大きな後押しになりました。振り返ってみると、今のSimulation Governanceの原点であったのかもしれない、と少し懐かしく思い出します。
さて、当初数年はデータ管理系の機能だけでも多くの企業に導入いただいたSLMですが、プロセス管理系と一緒になることで、解析部門をメインにしたニーズだけでなく、よりスコープの広い設計部門のニーズにも対応できることが分かってきました。そこで、前回紹介したPIDO機能を、SLMに加えて、SPDMとして展開することになったのです。SPDMの概念図のデータ管理系とプロセス管理系(PIDO)が一体になり、今のSPDMの姿が完成しました。
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