手足をつくる四肢前駆細胞を産むリプログラミング因子群を同定:医療技術ニュース
九州大学らは、非四肢細胞に四肢前駆細胞の性質を付与するリプログラミング因子群を同定した。同因子群は、四肢発生過程でも四肢前駆細胞特定化の役割を担う可能性が高く、四肢再生医療への応用が期待される。
九州大学は2024年2月6日、非四肢細胞に四肢前駆細胞(LPC)の性質を付与するリプログラミング因子群を同定したと発表した。ハーバード医科大学らとの国際共同研究による成果となる。
四肢の主要組織は、側板中胚葉という中胚葉組織に由来し、胚発生期に作られる。四肢の元となる肢芽は、一部の側板中胚葉組織がLPCと呼ばれる細胞集団に特定化されることで形成が開始される。一方、側板中胚葉組織は、心臓など四肢以外の臓器や組織にも分化する。
LPCではない細胞にLPCの性質を与えることができる因子は、四肢の発生過程においてもLPCを特定化する役割を担う可能性が高い。そこで研究グループは、非四肢由来細胞をLPC様細胞に転換できるリプログラミング因子の同定を通して、側板中胚葉でLPCを特定化する因子の同定を試みた。
まず、初期肢芽形成領域のみで働く遺伝子をRNAシーケンスにより網羅的に探索したところ、18個の候補遺伝子が同定された。四肢由来ではない線維芽細胞にこの18因子をまとめて導入すると、LPCに特徴的なマーカー遺伝子が発現した。さらに因子を絞り込んだ結果、転写因子のPrdm16とZbtb16、RNA結合因子Lin28aの3因子があれば、LPCマーカー遺伝子が発現することが分かった。
この3因子の組み合わせは、それぞれの頭文字からPZLと名付けられ、LPCマーカー遺伝子が発現した細胞はrLPCと命名された。rLPCの遺伝子発現プロファイルをさらに詳しく調べると、一部のrLPCは内在性のLPCと酷似した遺伝子プロファイルを有し、内在性LPCと同様の分化能を持つことが明らかとなった。
また、リプログラミングに成功した細胞は、初期段階でE3ユビキチンリガーゼLin41の発現が上昇していた。そのため、PZLにLin41を組み合わせて線維芽細胞に導入したところ、リプログラミング効率が向上した。
これらの結果は、本来の四肢形成過程においても、Prdm16、Zbtb16、Lin28a、Lin41が側板中胚葉に四肢前駆細胞の性質を与える特定化因子として働く可能性を示すものだ。四肢再生医療への応用が期待される。
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