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CAEソフトに仕掛けられたトラップCAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(1)(4/4 ページ)

金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。第1回のテーマは「CAEソフトに仕掛けられたトラップ」だ。

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シミュレーションに答えを求めるのは間違っているだろうか

 溶接構造物のどこかが壊れるとすれば溶接部となります。溶接部以外が壊れたという事象は、筆者の調査不足でしょうか、これまで聞いたことがありません。すみ肉溶接で荷重伝達型溶接部の場合のクラックの入り方は図21に示すように2通りあります。

荷重伝達型溶接部の破壊
図21 荷重伝達型溶接部の破壊[クリックで拡大]

 では、応力解析をやってみましょう。ミゼス相当応力は図22のようになりました。

荷重伝達型溶接部の応力分布
図22 荷重伝達型溶接部の応力分布[クリックで拡大]

 「うわっ!! 要素分割を変えると応力値も変わった。どうしようもねーな」となってしまいました。この図から溶接部の疲労破壊の有無を予測することはできないようです。しかし「疲労破断フラグ」が立っていることはうすうす気付きます。シミュレーションに溶接部の疲労破壊の有無の答えを求めるのは間違っているのでしょうか? これも取りあえずこの辺にして、次に行きましょう。

うるさいやつら

 1回の荷重で部品が壊れた場合と比較して、疲労破断を起した場合は発生する作業量が増えます。というのは、破断したときは時間が経過しているのでその機械は既に顧客の工場に設置されていて、「原因は何ですか?」や、「いつまでに対策を完了していただけますか?」とか、「お客さんへの説明はいつの予定?」など、いろいろと“うるさいやつら”が登場します。

 1回の荷重で部品が壊れた場合、その機械は自社工場内にあるので、「すみません。そこ、強度計算していませんでした。明日の始業時間前に修正図面を3部持ってきます」と言えば、その日は夜なべ仕事になりますが大概は許してくれます。

 疲労破断するには時間を要します。通常、疲労破断が発生した場合、その機械は顧客の工場にあり、既に顧客の持ち物となっています。そのため、

  1. 不具合理由の説明
  2. 対策案の提示
  3. 対策案が大丈夫なのかの検証

などが要求されます。1回荷重の破壊と比べものにならないくらいの作業が発生します。表1に1回荷重破壊と疲労破断の違いを示します。

1回の荷重で部品が壊れたとき 金属疲労で部品が壊れたとき
不具合発生時期 機械の試運転時 半年後など
不具合発生場所 自社工場内 顧客の工場
機械の所有者 自社 顧客
要求される作業 一晩の夜なべ仕事 現象の再現シミュレーションないしは、再現実験
対策案の妥当性を示すシミュレーション
報告書の作成と説明
表1 1回荷重破壊と疲労破断の違い

 金属疲労を起したときは対策コストが桁違いに増えることになりますので、今回のシリーズでは、CAE解析結果から疲労破断発生の有無を予測することの内容を多くしようと考えています。

ゼロから始める解析生活

 以上、今回は読者の皆さんをかなりビビらせてしまいました。これからCAEを始められる方もおられると思います。「ゼロから始める解析生活」は楽なものではないことをご理解いただけたでしょうか。次回以降は、CAEを使った強度計算の不安を一つずつ取り除いていく内容となるはずです。連載が途中で打ち切られないためにも、皆さんの応援をお願います。

 最後にもう一度言っておきます。

レジェンドの最大値は見るな

次回へ続く

⇒「連載バックナンバー」はこちら

Profile

高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表

1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。

構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ


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