3Dプリンタ活用によるサステナブルなモノづくり事例:サステナブル設計とデジタルモノづくり(6)(3/3 ページ)
地球環境に配慮したモノづくりの実践はあらゆる企業に課せられた重要なテーマの1つだ。本連載では、サステナブル設計の実現に欠かせないデジタルモノづくりにフォーカスし、活用の方向性や必要な考え方などについて伝授する。連載第6回では、3Dプリンタ活用によるサステナブルなモノづくり事例について紹介する。
3Dプリンタを活用したパーツ製作について
保守パーツやオプションパーツの在庫、金型管理の削減を考えたときにも、3Dプリンタは効果を発揮します。3Dデータがあれば、いつでも3Dプリント可能なので、余計な在庫を保管する必要がなく、保管場所も不要になります。また、輸送に関して考えた場合、各拠点に3Dプリンタを配置しておけば、船やトラックなどで輸送する距離を減らすことができ、CO2排出量や輸送コストの削減につなげられます。
SOLIZE
以前、SOLIZEが製造した3Dプリント製品がトヨタ自動車の純正オプション部品に採用され話題となりました。3Dプリンタ「HP Jet Fusion」を用いてSOLIZEが製造した部品が、トヨタ自動車の「LEXUS LC500」に搭載するオートマチックトランスミッション(AT)オイルクーラーのダクトに採用されたというものです。量産されたオイルクーラーダクトの企画生産台数を、金型によるインジェクション成形と3Dプリント製作した場合とで、温室効果ガス排出量をLCA(ライフサイクルアセスメント)で比較すると、「3Dプリント製作が37%優位」という結果になったそうです。
WIBU-SYSTEMS
2022年のニュースになりますが、WIBU-SYSTEMS(ウイブシステムズ)が、Daimler Trucks&BusesおよびFarsoon Technologiesと提携し、オンラインストア「OMNIplus」を通じて3Dプリント可能なバス用スペアパーツを入手できるサービスを開始しています。
良品計画
こちらも2022年のニュースですが、良品計画が東京都豊島区の大型店舗「無印良品 板橋南町22」に「3Dプリンタ工房」を開設し、ファブラボ品川と協業し、無印良品の既存商品を使いやすくするための「拡張パーツ」を3Dプリンタで作れるサービスを開始し、話題となりました。
ユニチカトレーディング
ユニチカトレーディングは、障害や病気によるまひ、加齢など、身体機能の低下を補うための自助具の開発において3Dプリンタを活用し、使用者に合わせて形を調整できる自助具ブランド「くぅぽの」を立ち上げました。造形材料に、3Dプリンタ用感温性特殊フィラメント「TRF(Thermo Reactive Filament)」を改良した「TRF+H」を使用しており、約45℃以上に加温することで形を調整できます。
サステナブルなモノづくりの実現に必要なスキルとは?
今回、3Dプリンタ活用によるサステナブルなモノづくりをテーマに、さまざまな事例を紹介しました。サステナブルなモノづくりの実現は、あらゆる企業が取り組むべき目標であり、その活動の中で3Dプリンタが果たす役割は非常に大きいと考えます。
そのような流れに対応していくためにも、3Dプリンタの特徴である積層造形による重力の影響や表面/内部の状態などを理解し、適正な形状を考える「DfAM(Design for Additive Manufacturing:付加製造のための設計)」のスキルを身に付ける必要があります。また最近では、適正に3Dプリントできるかシミュレーションできるソフトウェアも登場しています。トポロジー最適化やジェネレーティブデザインなど、コンピュータが最適な形状を提案してくれる技術やラティス構造の3Dモデルを作成するソフトウェアも日々進化しています。
DfAMのスキルを身に付けるためには、実際にいろいろなパターンを自分で試してみることが何よりも重要です。“3Dプリンタだけで作る”という発想を変えて、後処理(二次加工)として切削加工を施して高精度なモノを作るなど、技術を組み合わせて実現の方法を模索してみるのもよいでしょう。
3Dプリンタで作る部品の品質、コスト、時間だけを、従来工法と単純比較するとメリットを感じられない場合があるかもしれません。しかし、設計から製造、組み立て、保守管理といったプロセス全体と比較して考えた場合、従来よりも大きなメリットが得られる可能性があります。
単純に出来上がった部品だけで判断するのではなく、評価する視点を適切に持ち、3Dプリンタの活用効果を見定めていきましょう。その際、サステナブルなモノづくりの観点も忘れずに一緒に考えてみてください。今回の記事が少しでも皆さんの活動の参考になれば幸いです。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
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