生成AIは本当に製造業の役に立つのか 導入後の「定着化」が問われる2024年:MONOist 2024年展望(3/3 ページ)
2023年は大手製造業を中心に生成AIの大規模導入が進んだ年だった。確かに、生成AIは製造業にも革命的な変化をもたらすテクノロジーだと感じられるが、導入そのものはゴールではない。2024年は定着化に向けた施策が進むと思われるが、その辺りを少し考えてみたい。
ツールの導入だけでなく、業務再設計まで踏み込んで考える
生成AIを業務に深く組み込んでいくに当たり、既存の業務プロセスを見直す必要が出てくるかもしれない。理由の1つは、先に述べたハルシネーションや著作権の問題を回避するためだ。生成AIの出力結果を人の目で確認するプロセスが求められるからだ。
この過程がうまくシステム化できなければ、業務に新たな煩雑さを招いてしまうことになりかねない。この点について、大日本印刷 情報イノベーション事業部 ICTセンターシステムプラットフォーム開発本部 DX推進部 部長の和田剛氏は、「プロセスの代替ではなく、全く新しい業務設計が必要になる可能性もあるのではないか」と指摘している。
一方で、既存の業務プロセスが抱えていた課題を、生成AIで解決できる可能性もある。例えば、製造業の大きな業界課題として技術承継の問題がある。生成AIは経験の浅い技術者の現場活動を支援するという形で役立つだろう。熟練技術者が退職する前に、経験を通じて学んだ暗黙知を生成AIとの応答の中で効率的に形式知化していくといった使い方も考えられる。
生成AIはIoT(モノのインターネット)を通じて収集したデータを、現場で役立てる上でも効果を発揮する。すでにそうしたサービスは登場している。ソラコムは2023年7月にChatGPTを活用して、IoTデータの内容を自然言語で説明する「SORACOM Harvest Data Intelligence」のサービス提供を開始した。IoTスタートアップであるMODEも2023年11月に「BizStack Assistant」のβ版をリリースした。
このような形で生成AIを取り入れていく際に、単に既存プロセスの上にデジタルツールを乗っけて業務を効率化するのではなく、生成AIによってどのような新たな価値が実現できるかと考えることも大切だ。この辺りは製造業のDXの文脈で長らく言われてきた、「デジタルツールの導入はDXそのものの本質ではない」という話と大きく重なる部分があるだろう。
目先のツール導入だけではなく、そこからどのような価値を得たいのかを部門や組織全体のスケールで捉えて、そのために事業や業務全体の再設計にまで踏み込んで考えていく必要があるのではないか。生成AIを使う現場の声を素早くフィードバックし、効果的な使い方を模索し続ける仕組みづくりも欠かせない。
2024年は生成AI導入を進めてきた企業にとっては、定着化が成功するかが試される年となる。一方で、まだ導入に踏み切っていない企業も多くいる。もし生成AIの活用に関心があるのならば、MONOistで紹介する記事などもぜひ参考にして情報収集に役立ててほしい。
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