生成AIがIoTデータに基づき現場業務を支援、必要な情報が「一発で手に入る」ツール:製造業IoT
IoTデータの収集、可視化ツールを展開するMODEは、2023年6月にデモ版として「BizStack AI」を発表した。対話型生成AIを活用しており、現場作業者からの自然言語での問いかけに対してIoTデータに基づく回答を生成して、返答する。
生産拠点で収集したIoT(モノのインターネット)データを基に、生産性の向上や業務の効率性向上に役立てる取り組みの重要性は、広く認識されるようになった。これを支援するためのIoTデータ収集、可視化、分析サービスも既に多くのものが市場で展開されている。
ただ、これらのサービスを導入していても、現場の作業者がIoTデータを活用しやすい環境にあるとは限らない。いくらIoTデータを集約してグラフなどの形で見やすく可視化できるダッシュボードがあっても、現場の作業者はそれを常に確認できるわけではないからだ。IoTデータを現場でより効果的に活用するには、現場作業者がデータにアクセスしやすい環境が求められるのではないか。
こうしたニーズに応えるかもしれないのが、IoTデータの収集、可視化ツールを展開するMODEが2023年6月にデモ版として発表した、「BizStack AI」だ。対話型生成AI(人工知能)を活用しており、現場作業者からの自然言語での問いかけに対してIoTデータに基づく回答を生成して、返答する。
例えば、特定の設備機器に関する「最後のメンテナンスの日付はいつ?」といった質問や、「室内の気温と湿度は?」といった問いかけに答えることが可能だ。
ダッシュボードを見ずに一発でデータを取得
MODEは生産拠点などのIoTデータを一元化し、見える化を促進するサービス「BizStack」を提供している。BizStackを活用することで製造現場の生産ラインや設備機器ごとに各種IoTデータを取得し、KPIに応じたグラフによる情報の可視化や、環境変化に応じたアラートを出すといったことが可能だ。総合設備効率(OEE)を算定して、時系列グラフで表示して確認することもできる。製造業や建設業などで導入実績が多い。
今回発表したBizStack AIは、BizStackのアドオン機能として提供される。Slackなどのチャットツールと連携させて、利用者がテキストでBizStack AI用の専用チャンネルに質問を投稿すると、BizStackが収集したIoTデータを基に、回答を自動生成して返す。質問の文面は丁寧な表現の方が回答精度が高まりやすいが、例えば「昨日の温度はどうだった?」など、ある程度砕けた表現にも対応できる。
一定期間におけるデータの変化量などを質問した場合は、自動作成されたグラフなどが添付される場合もある。専用チャンネルには複数人が同時参加可能だ。また、BizStack上で収集したデータから異常を検知すると、BizStack AIがチャットツール上でアラートを通知する機能もある。
BizStackではデータを単に蓄積するだけではなく、構造化して意味付けを行っている。この点について、MODE CEOの上田学氏は「この設備機器のOEEがこのように低下しており、その理由としてこうした原因が考えられる、といった回答が生成できる程度に、データにコンテキストを持たせられる点が特徴だと考えている」と説明した。
上田学氏は「PC上で確認できるきれいで見やすいダッシュボードがあっても、生産ラインにいるといつも手元で見られるわけではない。だが、そうした時にも困りごとは起こる」と指摘する。このためスマートフォンやタブレット端末で見やすいモバイル版ダッシュボードの作成を検討していたが、グラフのレイアウト設計などの点で課題があったという。
そこで目を付けたのが対話型生成AIだった。モバイル版のダッシュボードを作成するのではなく、IoTデータを読み解いて、必要なポイントを自然言語で伝えてくれるシステムを作る。こうした発想で開発したのがBizStack AIだった。「現場作業員がある設備機器の最終メンテナンス日時を知りたい場合、『第2生産ラインにある3号機のデータをちょうだい』という具合で尋ねれば一発で必要なデータを得られる。ダッシュボードを確認する手間が不要になる」(上田氏)。
BizStack AIではChatGPTなどで知られるOpenAIが提供するGPT-3.5 TurboのAPIを活用している。規約上、APIを介して使用する場合は、質問内容が大規模言語モデル(LLM)の再学習に使われることはない。
現在のBizStack AIはプロトタイプ版であり、今後、機能のアップデートを順次行う予定だ。具体的な内容は検討中だが、BizStack AIが作成したグラフに「先月よりもOEEが向上しています」といった解説文を付与する機能などが候補として挙がっているという。
ただ、データの解釈は単純にLLMとデータベースを連携させてもうまくいかない。MODEのエンジニアである島川悠太氏は「生成AIと数値のデータはあまり相性が良くない。データの海から必要な情報を引き上げて、適切なロジックで処理して“下ごしらえ”しておき、必要に応じてそれらを使う仕組みが必要だ。MODEはこうしたデータ処理の領域で強みを発揮できる」と説明する。
この他にも、データ分析を踏まえたレポート作成業務の自動化や、対話型生成AIを活用してPC上のダッシュボードをより柔軟で手軽に構築できるようにする機能の開発などを検討している。
BizStack AIの本格的なリリースは2023年末を予定している。提供価格は1拠点当たり数万円を見込むが、さらなるコストダウンも目指すとする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 製造業の生成AI活用に3つの道筋、製造現場などでの活用事例を探る
最も大きな注目を集めるワードの1つである「生成AI」。製造業ではどのように役立てられるのだろうか。活用事例を幾つか取り上げるとともに、製造現場などでの活用事例を探る。 - 製造業でも使える国産LLM搭載の業務支援AIサービス、β版を提供開始
AI insideは2023年8月3日、自社開発の大規模言語モデルを搭載したAIエージェント「Heylix」をクローズドβ版として提供開始すると発表した。 - 生成AIの登場で創作過程の詳細記録が必須に、AI発明では「入力」と「出力」が重要
日本弁理士会は、「ChatGPT」などの登場により注目が集まっている生成AIと著作権の関係性や、生成AIを含めたAI利用技術の構成について説明した。 - 大規模製品モデルの研究を進めるオートデスク、AIが設計業務にもたらすものとは
AIが設計開発業務にもたらすインパクト、未来の設計/デザインの在り方について、Autodesk(米オートデスク) 製造業グローバルマーケット開発&戦略シニアディレクターのデトレフ・ライヒネーダー氏に話を聞いた。 - 米欧中で異なる生成AIへの規制動向、日本企業はどう向き合うべきなのか
PwC Japanグループは2023年7月24日、生成AIなどを含めたAI法規制を巡る各国の動向に関する発表会を開催した。