マテリアルズインフォマティクスの教育と成果の現在および未来:MONOist 2024年展望(3/3 ページ)
2023年は素材産業をはじめとするさまざまなメーカーがマテリアルズインフォマティクスの取り組みや効果について発表した1年だった。それらを振り返りながら、2024年以降のマテリアルズインフォマティクスのさらなる浸透と拡大で重要な役割を果たすであろう教育方法や導入効果について考察する。
MIの効果と将来の活用法
最後にMIの成果について2023年に行ったインタビューや記者発表取材の内容から紹介する。積水化学工業の成果として2つのケースに触れる。1つ目はフィルム製品の配合設計の検討速度を4時間にした事例で、従来手法と比べ900倍のスピードで検討できるようにした。
MI適用以前は、ベテランの素材開発者が30万種類を超える材料とプロセス(配合の方法、温度など)の組み合わせの中からパターンを絞った上で検討を行い5カ月かかっていた。そこで、フィルム配合設計に機械学習を適用し、材料とプロセスの組み合わせデータから、その組み合わせで創出される13種類の物性を予測するというMIを行った。これにより900倍に高速化できた。
2つ目は電子材料用テープの接着剤開発で、MI適用以前は、化合物合成→物性計測→選別を繰り返し、新規接着成分の探索時間が1カ月かかっていた。解決策として、配合設計に機械学習を適用し、化学構造から直接物性を予測するというMIを行い、新規接着成分の探索時間を16時間に短縮した。これは従来手法と比べ45倍速となる。
この2つのケースでは、これまでベテランの素材開発者が行っていた、多くの組み合わせの中からパターンを絞り込むという作業を減らした。イノベーションにつながるパターンの見落としの削減が期待できる。
また、旭化成では、MIを活用することで、ウイルス除去フィルター「プラノバ」の高性能化を実現した。20を超えるプロセス条件に対し500を超えるパターンで実験を繰り返し蓄積したデータとMIを組み合わせて、実験だけでは見つけられなかった製造プロセス条件の組み合わせたを発見。これにより、従来品と比べろ過量が2倍以上の「プラノバS20N」を完成させた。
一方、TDKでは、MIを活用することで新規磁石材料の発見や高周波材料の損失予測方法の開発を実現している。新規磁石材料の発見では、独自開発した機械学習プログラムと367個のデータを基に、残留磁束密度(Br)と角型性(Hk/HcJ)に優れる可変磁束磁石を見つけた。高周波材料の損失予測方法では、全て第一原理計算で行うと約2.5年かかる約2000種の材料の損失予測に要する時間を約30日に短縮した。
これらの事例で共通するのが、従来手法では大幅な時間を要する素材あるいは手法の発見や開発にかかる時間を短縮したことだ。2024年には、さまざまなメーカーが、MIで開発および発見する対象の素材と手法を拡大し、ニーズの深掘りやイノベーションにつながるアイデアの創出に当てられる時間が増えると考えられる。さらに、MIにより創出された時間で素材開発を担う新入社員にMIの教育を行える時間が増え、新入社員向けのMI教育事例も増えるだろう。
また、一部のメーカーでは、MIを活用して素材開発で必要な実験を自動化する設備を構築する動きが加速するとみられる。この設備に関しては既に積水化学工業が整備に向けて検討を進めている。積水化学工業の設備では、ロボットなどの機械で材料を運搬し所定のエリアで組み合わせなどの実験を行い、必要な結果が得られなかった場合にはAIにより異なるプロセスあるいは材料で実験を自動で実施する設備を構想している。
このような設備では、実験の自動化に合わせて得られる情報のデータベース化も自動化される可能性が高く、素材開発を行う社員の業務効率を高められるだろう。
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