新たなかゆみ治療へ、アトピー性皮膚炎のかゆみ伝達機序を解明:医療技術ニュース
理化学研究所は、皮膚炎を伴うかゆみの伝達には、感覚神経における転写因子STAT3の活性化が重要であることを発見した。かゆみに関連するサイトカインIL-31が、感覚神経に直接作用してかゆみを誘導していることを実証した。
理化学研究所は2023年11月29日、皮膚炎を伴うかゆみの伝達には、感覚神経における転写因子STAT3の活性化が重要であることを発見したと発表した。アトピー性皮膚炎などのかゆみに対する、新たな治療薬の開発が期待される。京都大学、かずさDNA研究所との共同研究による成果だ。
研究では、感覚神経においてのみ、IL-31受容体の遺伝子が欠損するマウスを作製。このマウスにアトピー性皮膚炎のかゆみに関連するサイトカインIL-31を投与しても、引っかき行動は増加しなかった。角化細胞のみIL-31受容体が欠損したマウスでは引っかき行動は起きており、IL-31が感覚神経に直接作用してかゆみを誘導していることを実証した。
次に、感覚神経のIL-31受容体と細胞内シグナル伝達タンパク質JAKの下流で、かゆみ誘導に関わっている分子を調べた。その結果、STAT3がIL-31のかゆみ誘導に必須であることが分かった。また、感覚神経のSTAT3は、IL-31受容体に加え、かゆみ伝達に関わる神経ペプチドの遺伝子発現を低下させることも示された。
感覚神経のみIL-31受容体を欠損させたマウスに、アトピー性皮膚炎に似た2型炎症を起こす皮膚炎モデルを適用したところ、皮膚炎に伴う引っかき行動が減弱した。しかし、引っかき行動はまだ残っていたため、IL-31受容体が関与しないかゆみの存在も示唆された。一方、感覚神経でSTAT3を欠損させたマウスでは、引っかき行動が強く抑制された。このことから、感覚神経のSTAT3は、IL-31が誘導するかゆみだけでなく、他のかゆみにも重要な役割を果たしていることが示唆された。
今回の成果は、IL-31受容体に対する抗体療法の発展とSTAT3阻害薬の開発につながることが期待される。
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