東芝が5V級高電位正極材料を開発、SCiBの弱点「電圧が低い」の克服へ:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
東芝は、コバルトフリーな5V級高電位正極材料を開発するとともに、同社のリチウムイオン電池「SCiB」に用いている酸化物負極と組み合わせたリチウムイオン電池を開発したと発表した。
平均作動電圧を「SCiB」の2.4Vから3.15Vに向上
このメカニズムを基に2つの技術を開発し、ガス発生の抑制を目指した。1つは、高電位正極材料の粒子表面の改質で、これによって電解液の分解によるガス発生と金属溶出の低減が期待できる。もう1つは、それでもわずかに溶出する金属を負極表面で無害化する技術である。これらの技術によって、高電位正極であるLNMOを用いても電解液からのガス発生が起こらず、一般的なリチウムイオン電池で用いられている電解液をそのまま使用できるので大幅なコスト増にならない。
なお、LNMOを正極材料とするリチウムイオン電池の実証では、東芝が開発を進めているNTO(ニオブチタン酸化物)を負極材料に用いている。試作した電池は、ガス発生の有無を確認しやすいラミネート型で容量は1.5Ahである。その電池性能評価では、作動電圧範囲が2.5〜3.5Vで平均作動電圧が3.15V、急速充電性能は5分間で80%以上を充電可能、初期容量比で80%以上を維持できる充放電サイクル数は6000回以上、60℃以上の高温下で充放電サイクル100回後の容量維持率99.2%、高出力性能は5C以上、低温出力性能では−30℃以下の環境にも対応、といった内容を確認している。
東芝のSCiBにとって大きな成果となるのが平均作動電圧の大幅な向上である。SCiBは、酸化物負極によって実現される高入出力性能や充放電サイクル数で示される耐久性、くぎ刺し試験でも発火や発煙が起きない安全性などを大きな特徴としているが、平均作動電圧は2.4Vと低い。正極材料にLCO、負極材料にグラファイトを用いるリチウムイオン電池の3.6Vと比べて1V以上低く、同じく安全性で高い評価が得られている正極材料にLFPを用いるリチウムイオン電池の3.2Vと比べても開きが大きい。今回の技術開発により、LFPを用いるリチウムイオン電池と同等の平均作動電圧を実現するとともに、高入出力性能や耐久性は高いレベルを維持できていることを強みとして実用化を進めていく方針である。
なお、今回の開発で負極材料を用いたニオブを用いるNTOについては、コスト削減に向けて双日、ブラジルのCBMMと共同開発契約を結んでおり、ニオブ材料の安定的な供給体制を確保できていることから大幅なコスト増にはつながらないという見立てだ。
また、今回の研究開発成果は、東芝にとって利用しやすく調達しやすい負極材料がNTOだったという背景もある。今後は、グラファイトなど一般的な負極材料を用いて平均作動電圧が4V以上となるようなリチウムイオン電池の研究開発にも取り組んでいく方針だ。
なお、今回の研究開発成果は、「第64回電池討論会」(2023年11月28〜30日、大阪国際会議場)で発表する予定である。
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