メタバースが急速普及する物流と建設業界、「2024年問題」などの問題解決に:デジタルツイン×産業メタバースの衝撃(4)(6/6 ページ)
本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。
デジタルツインを通じたクレーンの動作自動化で生産性/安全性向上を
大林組はタワークレーンなどの操作においてもデジタルツイン連携の取り組みを進めている。三重県の川上ダムの施工において、BIM/CIMと電動タワークレーンを連携し、コンクリート運搬の遠隔操作/制御を行っている。クレーンの操作は一定のノウハウが必要であるが、これをこなせる熟練オペレーターの不足が課題となっている。
そこで熟練者でなくてもある程度可能にするマシンガイダンス(半自動によるオペレーター支援)/マシンコントトール(自動制御)や、熟練者が現場に行かずとも操作可能な形を模索した。この取り組みでは、対象となるコンクリート部材の運搬位置をBIM/CIM上で選択すると、クレーンが自動で動くという形を目指している。
クレーンの動作を自動化するに当たっては、CIMで行った運搬経路のシミュレーションとともに、物理空間のLiDAR(Light Detection and Ranging)センサーで障害物の有無や人の安全などのモニタリング結果を機器制御に反映する仕組みにしている。タワークレーンを題材にCPSと機器の連携ノウハウを蓄積するとともに、技術者を育成して同様の仕組みを搬送ロボットやバックホーショベルなど他の機器にも横展開していく。これによって、生産性/安全性を向上するとともに、働き方改革にもつなげていく考えだ。
進む業界連携と、ゼネコンの「ソリューション企業化」
建設業界での特徴として、業界内の企業連携が盛んにおこなわれている点が挙げられる。技術開発においてはゼネコン同士での競争であり各社がしのぎを削っていたが、近年では自社で尖らせるべき競争領域と、協調領域の振り分けが進んできている。
例えばロボット領域では、鹿島建設、清水建設、竹中工務店、大林組、大成建設のスーパーゼネコンと呼ばれる大手企業とともに、中堅ゼネコン24社、協力会社209社により「建設RXコンソーシアム」が形成され、共同開発をはじめとした各種連携が図られている。同様にCPSにおいても、自社のみで活用するのではなく、業界他社も含めて外販をする動きが進んできている。元々建設プロジェクトはJV(共同企業体)で共同受注するケースも多く、業界内には他社連携の土壌がある。この中で、今後デジタルツインを起点に、業界全体で企業を超えたオープンイノベーションが加速することも期待されている。
こうしたデジタル化の中でゼネコン/建設企業の在り方も変わってきている。今まで自社の案件における建設/モノづくりを行っていたが、デジタル化の中で、他業界同様に水平分業や、ソリューション企業化が進んでいる。自社のノウハウ/技術を活用して、業界内の横展開や、異業界へソリューション展開を行なうケースもでてきている。例えば鹿島建設は自社のデジタルツインの仕組みの3D K-Fieldを業界他社も含めて他社外販を行っている他、準大手ゼネコンの西松建設は自社のノウハウにもとづく3D施工管理システムをBIMのアドオンソフトとして外販している。
現場の経験や暗黙知をデジタルツインによって標準化
鹿島建設は、建築現場の遠隔監視を行うためのデジタルツインである「3D K-Field」を展開している。経営陣のコミットメントのもと、全社を挙げて開発された。これまでの建設現場では、状況が刻々と変化する中で、資機材の場所や稼働状況を正確に管理することは難しかった。
これをリアルタイムで「見える化」して、現場の効率化を図ったのが3D K-Fieldだ。当初は2D情報を提供していたが、多階層にまたがる建設現場で1フロアごとの管理にも生かすため3D化した。現場に設置されたさまざまなIoT(モノのインターネット)センサーで取得したヒト/モノ/機器のデータを仮想空間に表示することで、分散している現場の情報を統合して建設現場をリアルタイムで可視化している。これら建築現場に人や資機材の動きを3D情報として蓄積することで、他の現場でのリソース検討やシミュレーションにも活用できる。現場の経験や暗黙知をデジタルツインを通じて標準化することで、誰もが利用できる形にしたのだ。
さらに建設後の維持管理や同業への外販も行っている。大和ハウス工業などとともにスマートシティの運営主体として同社も参画している「HANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ)」でも3D K-Fieldが活用されている。単体の建物にとどまらず、エリア/街単位での維持管理へと適用範囲を広げているのだ。また、自社活用にとどまらず、他の建設企業にも外販していることが大きな特徴だ。
通常、自社技術を同業に提供するようなシステム外販は、社内での抵抗にあい事業化が進まないケースも多い。しかし、同社の経営陣は自社をソリューション企業へ転換する方針を打ち出しており、業界内での外販事業にも強くコミットしつつ進めている。ビジネスモデルとしてもSaaS型のビジネスモデルとして提供する。導入に当たってのコンサルティングや、必要となるセンサーソリューションの展開も検討し、デジタルツインの商材を業界全体へ広げるべく強化している。
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筆者紹介
小宮昌人(こみや まさひと)
JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 プリンシパル/イノベーションストラテジスト
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所を経て現職。2022年8月より政府系ファンド産業革新投資機構(JIC)グループのベンチャーキャピタルであるJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(VGI)のプリンシパル/イノベーションストラテジストとして大企業を含む産業全体に対するイノベーション支援、スタートアップ企業の成長・バリューアップ支援、産官学・都市・海外とのエコシステム形成、イノベーションのためのルール形成などに取り組む。また、2022年7月より慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員としてメタバース・デジタルツイン・空飛ぶクルマなどの社会実装に向けて都市や企業と連携したプロジェクトベースでの研究や、ラインビルダー・ロボットSIerなどの産業エコシステムの研究を行っている。加えて、デザイン思考を活用した事業創出/DX戦略支援に取り組む。
専門はデジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
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