技術文書を100文字要約、アサヒビールがR&Dプロセスに生成AIを導入した2つの狙い:製造業×生成AI インタビュー(2/2 ページ)
アサヒビールは2023年10月、R&D部門を主な対象として、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を活用した社内情報検索システムのPoCを開始した。社内情報検索システム導入の理由や、R&Dプロセスにおける生成AI活用の期待感を同社担当者に聞いた。
東京工場時代の資料も検索しやすいように
今回のPoCでは、生成AIを活用した検索システムのニーズと、検索システム自体の動作などを検証する。期間は2024年の3月頃までを予定している。社内アンケートを取り、フィードバックを得た上で残りの2カ月も実施していく。現時点では直近数年分の資料のみを格納しているが、残りの検証期間で10年〜15年前の過去資料も閲覧できるようにする。
木添氏は「特にビールなどの飲料研究は、東京工場(1962年〜2002年、アサヒスーパードライもこの工場から生まれた)が存在した時代からずっと蓄積されている。そうした時代の研究資料を参照する機会は少なからずあるが、当時の資料にどのような情報が含まれるか、若手や中堅の社員が全て把握するのは無理だ。こうした社員の業務支援を図りたい」と説明する。
アサヒグループの基礎研究や開発を担うアサヒクオリティー アンドイノベーションズをはじめ、R&D機能を持つグループ4社にも情報検索システムを横断的に展開していく。グループ各社が自社内のデータを格納して活用するイメージだ。主に、R&Dプロセスに携わるメンバーや、研究企画部、R&Dとマーケティングをつなぐ役割を担う開発プロジェクト部などの利用を想定する。
なおアサヒグループは、アサヒビールやアサヒ飲料、アサヒグループ食品といった国内事業を統括するアサヒグループジャパン(AGJ)内に、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を担う「DX統括部」を設置している。現在、DX統括部は生成AIの業務活用プロジェクト「やってTRY」など、グループ全体にまたがる生成AI活用の取り組みを担っているが、今回のPoCは小規模かつスピーディーに進めるために、まずはアサヒビールが中心となってプロジェクトを進めてきたという。
高難易度の製品開発がしやすい環境づくりを
アサヒビールが今回のシステムを導入した目的は大きく分けて2つある。1つはアサヒビールが蓄積してきたR&Dの膨大なナレッジを有効に活用することだ。もう1つが、R&D担当者が1つのテーマに限らず、その周辺まで広げて研究成果を確認しやすい仕組みをつくることにある。木添氏は「技術難易度の高い、新しい製品を開発する必要性が市場ではさらに高まっている。1つの技術を突き詰めるだけでなく、その関連技術も押さえる必要がある」と説明する。
「技術難易度の高い」製品の例として木添氏が挙げるのが、アサヒビールが独自開発した「生ジョッキ缶」だ。缶の内側に吹き付けた塗料の構造で、ふたを開けると気圧差により豊かな泡が立つ。生ビールのように泡が盛り上がって出てくるという珍しさから、多くの話題を呼んだ。
同製品の開発では、内容物のビールだけでなく、缶の構造や塗料による加工方法などを素材メーカーやサプライヤーと共同で相談しつつ行う必要があった。顧客に新鮮な体験価値を提供する製品を作るには、もはや「飲料だけ」研究すればよいわけではない。sagurootではワードの完全一致だけでなく、部分一致による検索にも対応する。これに加えて、生成AIによる要約機能などを駆使することで、研究開発における情報収集の高速化とともに、要約文を通じてR&D担当者が自身のスコープ外の情報にも接触しやすい環境づくりなども狙う。
変わるR&DとAIの関係性
飲料業界の中でも先端的な製品の開発に挑戦するアサヒビールだが、「機械学習などAIを活用したR&Dの取り組みはこれまでほとんど行っていなかった」(木添氏)という。過去何度も本格導入を試みたものの、コストや導入効果の不透明さなどを鑑みて断念してきた。
「以前は、定型業務に適したITは非定型業務を含むR&Dとあまり相性が良くないイメージがあった。一方で、生成AIは特定のタスク特化型ではない。アイデア出しなど人間の創造的な活動の一部を代替する存在になるはずだ。また、R&Dのデータ分析でも、画像や図などの認識が可能なOpen AIのサービス『GPT-4V』などを活用していく可能性もある。生成AIには、従来のR&DとAIの関係性を変えていく可能性があるのではないか」(木添氏)
AI活用ではデータを収集し活用可能な状態にするプロセスがしばしば課題視される。ただ、今回のPoCで取り入れているデータはテキスト検索に対応しやすい形式が比較的多く、こうした苦労はあまり無かったという。一方で今後、業務資料を格納する他、検索システムへのデータの自動取り込み機能などを追加するに当たっては、格納すべきファイルの種別や既存のフォルダ構造の変更などを改めて検討する必要がある。
「まだユーザーのアンケートは収集段階だが、『今まで知らなかった資料を見つけられた』などポジティブな意見が届いている。今回実装した機能はシンプルなものだが、もはや生成AIを使わない、という選択肢はないように思える。といっても、いきなり仕事の仕方を変えていくのではなく、少しずつ、AIとの付き合い方を学んでいければと考えている」(木添氏)
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