トラウマ記憶形成における脳神経細胞ネットワークレベルの変化を解明:医療技術ニュース
大阪大学は、光学と機械学習の融合的新手法を用いて、マウスのトラウマ記憶に関わる脳神経細胞ネットワークの検出に成功し、記憶形成に伴う複雑な変化を捉えてトラウマ記憶が生じる仕組みを明らかにした。
大阪大学は2023年10月6日、光学と機械学習の融合的新手法を用いて、マウスのトラウマ記憶に関わる脳神経細胞ネットワークの検出に成功したと発表した。これにより記憶形成に伴う複雑な変化を捉え、トラウマ記憶が生じる仕組みを明らかにした。東京大学らとの国際共同研究による成果だ。
音を聞いているマウスに微弱な電気刺激を与えると、恐怖反応を示す。この学習をした翌日には、音を聞かせるだけで恐怖反応し、トラウマ記憶が形成されたことが分かる。今回の研究では、この恐怖連合記憶の実験系を利用した。
具体的には、光により生きた動物の脳を長期的に計測できるin vivo2光子イメージングに、低侵襲なプリズム埋込法とイメージング中に記憶課題を実施するための新装置を統合。トラウマ記憶に関わる脳の前頭前野の大規模な神経活動観察を実施し、神経細胞集団の活動変化からトラウマ記憶の実体を捉えた。
この手法を用いて、トラウマ記憶に関わる神経細胞集団を同定した上で、記憶獲得前の神経活動データをさかのぼり、記憶が生まれる仕組みの解明を目指した。同定には、機械学習解析のエラスティックネットを活用している。
また、数理解析技術のグラフィカルモデリングにより、トラウマ記憶を担う細胞集団で神経細胞同士が制御し合う仕組みを調査した。その結果、本来無害な音に関連する神経細胞と弱い電気刺激に関連する神経細胞が、トラウマ体験後にネットワークを形成して連合回路を作ることが分かった。弱い電気刺激に関連する神経細胞は、トラウマ記憶の神経細胞ネットワークのハブとして機能する傾向が示された。
この結果からトラウマ記憶は、弱い電気刺激のようなトラウマ体験に強く活動する細胞をハブとして、経験依存的ハブネットワークを形成することが明らかとなった。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療にも使う消去学習で恐怖反応が出にくくなったマウスでは、これらの神経細胞集団の活動や情報処理が破綻していた。このことから、トラウマ記憶の神経細胞ネットワークの活動や情報処理の抑制がトラウマ治療につながる可能性が示唆された。
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