クモの器官を参考に、ひずみを計測可能な柔軟光センサーシートを開発:研究開発の最前線
東京大学は、神奈川県立産業技術総合研究所、宇都宮大学、科学技術研究所と共同で、クモの脚関節近くの亀裂が平行に並んだ器官を参考に、ひずみが測れる光センサーシートを新たに開発した。
東京大学は2023年10月13日、神奈川県立産業技術総合研究所、宇都宮大学、科学技術研究所と共同で、クモの脚関節近くの亀裂が平行に並んだ器官を参考に、ひずみが測れる光センサーシートを開発したと発表した。人の動作認知などに対して、非電極、非配線下でひずみを計測可能なフレキシブルウェアラブル性能を持つ光センシングやバイオミメティクス技術としての発展が期待される。
今回の研究では、クモの脚関節近くにある亀裂の開閉動作を、表面プラズモン共鳴に応用し、塗るだけでひずみ計測が可能な光センサーシートを開発。試料の引っ張り試験中に、透明導電膜として知られるITO(Sn添加In2O3)ナノ粒子薄膜の表面形態を観察したところ、試料に引っ張りを与えると表面上に多くの亀裂が形成され、その密度はひずみに応じて大きくなった。引っ張りを戻すと、表面の亀裂が閉じた。
(a)スピンコーティング法を用いたITOナノ粒子薄膜の作製方法。(b)〜(e)ナノ粒子薄膜の柔軟性を示す写真。異なる引張応力下におけるナノ粒子薄膜表面の共焦点レーザー顕微鏡の写真[クリックで拡大] 出所:東京大学
引っ張り試験中のITOナノ粒子薄膜について、光学特性と試料の応力分布を見ると、試料に対する引っ張りひずみが25%と50%の場合、反射率変化に面内偏光性が観測された。この面内偏光性は、試料に発生した応力の面内方位に一致したことから、ITOナノ粒子薄膜の反射率変化が応力と良い相関性があることが分かった。
(a)引っ張り試験下の試料の光学写真と3次元応力分布像。(b)反射率変化(ΔR)の面内偏光性。(c)3次元電磁界解析による反射率の面内偏光性。面内偏光性は入射角度(θ)を変化させた。(d)応力(σ)の面内依存性。[クリックで拡大] 出所:東京大学
この相関性を確認するため、丸い穴を開けたPDMS(ポリジメチルシロキサン)シートを使った引っ張り試験を実施。応力が集中する丸い穴の周りと応力の集中がないエリアの反射率の変化を測定すると、集中エリアの方が反射率の変化が高かった。これは、シート表面の応力分布の違いをITOナノ粒子薄膜の反射率変化を使って評価できることを示唆する。
また、ウェアラブル性能を測定するため、ゴム手袋の人差し指第2関節部位上にITOナノ粒子薄膜を塗布し、人差し指の屈伸運動による反射率の変化を計測した。指の曲げ角度の増加に応じて反射率の変化が見られ、指の屈伸運動を繰り返すと反射率が可逆的に変化し、人の運動動作の測定に成功した。これにより、同センサーシートのフレキシブル性能が証明できた。
同センサーシートは、構造物のひずみ診断から、人の運動動作の認知、柔らかい材料の計測に向けたフレキシブルでウェアラブルなひずみ計測に活用できる可能性がある。今後は、ハイパースペクトルカメラを用いることで、ひずみ領域の2次元的な可視化計測への展開につなげる。
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