ドローンで風力発電設備のタワー点検を自動化、点検時間は10分の1に:ドローン
日立パワーソリューションズは、センシンロボティクスと共同開発した風力発電設備のタワーをドローンの自動飛行によって点検するシステムついて説明。地上から人手で行う従来の手法と比べて、点検時間を最短で10分の1に短縮できるという。
日立パワーソリューションズは2023年10月18日、同社大沼工場(茨城県日立市)とオンラインで会見を開き、センシンロボティクスと共同開発した風力発電設備のタワーをドローンの自動飛行によって点検するシステムについて説明した。地上から人手で行う従来の手法と比べて、新たに開発したドローンによる自動点検システムを用いれば点検時間を最短で10分の1に短縮できるという。同年12月1日からサービス提供を始める計画で、初年度は年間100基の点検を目標としている。
両社は、日立パワーソリューションズが2022年4月から提供している風力発電風車のブレードのメンテナンスを行う「ブレードトータルサービス」において、ブレードの点検をドローンとAI(人工知能)によって自動化するシステムを開発している。今回発表したタワー点検システムは、このブレード点検システムの技術を基に、より地上に近い高度で飛行するため障害となり得る樹木や建築物、土地の傾斜などを回避できるようにするなどの工夫を盛り込んでいる。
タワー点検システムの特徴は3つある。1つ目は、点検時間の短縮および作業負担の軽減である。従来の方法は、最初に地上から望遠鏡やカメラを用いてタワーの状態を確認した上で、異常が確認された場合には専門技術者がクレーンやロープアクセスで接近して近接点検を行うというもので最長で5〜6時間かかっていた(日立パワーソリューションズが保守点検業務を担うドイツのエネルコン製の風力発電設備における実績数値)。
新開発のシステムは、対象設備の情報やドローンの飛行ルート/撮影ポイントを設定してから、自動飛行機能でタワー外部の損傷や劣化箇所を撮影するのにかかる時間は約30分で済む。このため点検時間は、従来手法で近接点検を行う場合と比べて約10分の1に短縮できる。地上から状態確認を行うだけでも1〜2時間かかっていたため、これと比べても2分の1〜4分の1の短縮になる。また、高所作業を伴う近接点検が不要になるため、作業負担の軽減と安全性の確保にもつなげられる。
2つ目は、風力発電設備の製品仕様やサイト情報に応じて飛行ルートを自動生成できることだ。点検に必要な風力発電設備の製品仕様や対象設備の設置位置(緯度や経度)などのサイト情報をマスターデータとして登録することで、ドローンの飛行ルートを自動生成する機能を備えている。これにより、同一の設備で、常に同じ位置/範囲の撮影画像の取得が可能になる。また、撮影画像には、サイト情報や飛行位置が記録されるため、同一条件での設備状態の過去データとの比較や傷の進展度合いの確認や適切な点検記録管理が可能になり、最適な保守計画の立案にもつなげられる。
3つ目の特徴は、ドローンを用いた5方向からの高精度な撮影による高品質な点検である。ドローンが自動で飛行して5方向からタワー外部を高精細に撮影するので、従来の望遠鏡やカメラを使って地上から確認する方法に比べて、ブレードによる死角を回避するなど、タワー全体の点検および損傷、劣化箇所の位置やサイズなどの詳細な確認を行える。
風力発電設備の耐久年数は20年、2023年3月には倒壊事故も発生
今回、日立パワーソリューションズとセンシンロボティクスが風力発電設備のタワー点検システムを開発した背景には、2000年代前半に建設された風力発電設備が約20年といわれる耐久年数を超え始め、故障や不具合が続発し始めていることがある。2022年4月にサービスを開始したブレードトータルサービスは、風力発電風車のブレードやナセルで劣化や破損の発生が先行して起き始めていたことに対応したものだ。
しかし、2023年3月に六ヶ所村風力発電所(青森県六ヶ所村)で風力発電設備のタワーの倒壊事故が発生した。その原因は、タワーの溶接部分の老朽化とされている。同年4月には経済産業省が発電事業者に緊急点検を要請しており、タワー点検システムの自動化に対するニーズが急速に高まっていた。
両社は、共同開発したブレード点検システムをベースに、日立パワーソリューションズが風力事業で培ってきた保守知見と、産業用ドローンの活用実績が豊富なセンシンロボティクスのロボティクス技術を組み合わせて、5カ月という短期間でタワー点検システムを実現した。
今後は、ブレードトータルサービスのシステムと組み合わせて点検機能の拡張と一括管理を可能にするシステム開発を推進してさらなる高度化を図るとともに、今後国内でも建設が進む洋上風力発電への対応なども検討していく方針である。
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