シャープのフロー型亜鉛空気電池、エネルギー密度はリチウムイオン電池と同等:CEATEC 2023
シャープは「CEATEC 2023」において開発中のフロー型亜鉛空気電池を披露した。リチウムイオン電池と同程度のエネルギー密度を有するとともに大容量化が容易であり、発火の可能性が極めて低いことなどを特徴としている。
シャープは、「CEATEC 2023」(2023年10月17〜20日、幕張メッセ)において、開発中のフロー型亜鉛空気電池を披露した。リチウムイオン電池と同程度のエネルギー密度を有するとともに大容量化が容易であり、水系電解液によって発火の可能性が極めて低く安全性が高いことなどから、再生可能エネルギーの蓄電用など定置型蓄電池として提案していく方針である。
正極に空気、負極に亜鉛(Zn)を用いる亜鉛空気電池は、補聴器向けなどの一次電池として利用されているが、充電が可能な二次電池は実用化できていない。これは、充電を繰り返すと電極部に針状結晶(デンドライト)が発生して電池構造を破壊し短絡を引き起こしてしまうためだ。
シャープが開発中のフロー型亜鉛空気電池は、充電反応である酸化亜鉛(ZnO)から亜鉛への化学変化を行う充電セルと、放電反応である亜鉛から酸化亜鉛への化学変化を行う放電セルの間で、亜鉛と酸化亜鉛を分散した電解液が還流するフロー電池とすることで、電極部で針状結晶が発生しても電池構造が破壊されないようになっている。
エネルギー密度については、亜鉛空気電池は原理的にリチウムイオン電池を上回るものの、フロー型亜鉛空気電池をエネルギーシステムとして組み上げた場合には、リチウムイオン電池と同程度になる。また、充放電速度と関わる入出力密度はリチウムイオン電池よりは低くなるという。
フロー型亜鉛空気電池の特徴は3つある。1つ目は、安価な亜鉛を蓄エネルギー物質に利用するため低コスト化が可能なことだ。リチウムイオン電池の活物質であるリチウムは産出国や精製国が限られるが、亜鉛は多くの地域で得られるとともに、安価で供給も安定している。
2つ目は、大容量化が容易なことである。フロー電池は、充電セルと放電セル、電解液の貯蔵部、それぞれが独立した構造となっており、貯蔵部を大型化すれば容易に大容量化できる。さらに充電セルや放電セルよりもシンプルな構造になる貯蔵部が低コストなことも、大容量化を図る上でメリットになる。
3つ目は、亜鉛と酸化亜鉛を分散している電解液がアルカリ性の水系液体であるため、発火の可能性が低いことだ。高容量のリチウムイオン電池は、電解液に有機溶媒を使っているため短絡時に発火することが課題だが、フロー型亜鉛空気電池は原理的に高い安全性を確保できている。
なお、フロー型亜鉛空気電池の研究開発は、環境省の「令和4年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」の「ボトムアップ型分野別技術開発・実証」枠で2022〜2024年度の3カ年で実施されている。2024年度までに基礎技術の開発を進めた後、2025年度から実用化に向けた実証実験に入りたい考えだ。
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