リチウム金属電池の実用化へ、ソフトバンクがHAPS搭載に向け成層圏実験に成功:組み込み開発ニュース(1/2 ページ)
ソフトバンクは、先端技術研究所の技術展「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」において、空飛ぶ基地局「HAPS」向けに開発を進めているリチウム金属電池を披露した。
ソフトバンクは、R&D部門である先端技術研究所の技術展「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」(2023年3月22〜23日、東京ポートシティ竹芝 ポートホール)において、次世代電池の開発成果を披露した。同社が2027年の実用化を目指す空飛ぶ基地局「HAPS(High Altitude Platform Station)」向けとなるリチウム金属電池は、実用化に向けた開発が進捗しており、既に成層圏での充放電実験などを終えている。
負極材料にリチウム金属を採用するリチウム金属電池の電池セルは、質量エネルギー密度で520Wh/kgを達成している。展示では、1個の電池セル(重量62g)で、一般的な単三形のニッケル水素二次電池24本(ケース込みで532g)と容量が同等であることを示した。
リチウム金属電池の最大の課題は、充電中に負極から針状のリチウムが析出するデンドライトである。充放電を繰り返す中でデンドライトが成長し、電池構造を内部から破壊してしまうためサイクル寿命が短いといわれている。これに対してソフトバンクは、適切な圧力による電池セルの拘束でデンドライトの成長が抑制され、サイクル寿命を向上できることを確認している。拘束圧の最適値は3〜5気圧(atm)で、電池容量が当初の80%まで低下するまでのサイクル寿命として200回を実現できているという。「EV(電気自動車)などの電池は1000回以上のサイクル寿命が求められるため、そういった用途に適しているとはいえない。ただし、当社で開発を進めているHAPSの要件では200回程度のサイクル寿命でも十分であり、電池セルレベルでは実用化に近いところまで開発が進んでいるといえる」(ソフトバンクの説明員)という。
電池セルを束ねた電池パックの開発も進んでいる。先述した拘束圧を維持する仕組みを電池パックに組み込む必要があり、強いバネを用いて拘束する方式なども検討したが、その分だけ重量が重くなってしまい、リチウム金属電池の高い質量エネルギー密度という価値を生かせなくなってしまう。現在は、スポンジ状の素材を使ったクッション拘束方式により、十分なサイクル寿命を確保できることを確認している。
このクッション拘束方式を採用したリチウム金属電池パックを用いて、成層圏における充放電サイクル試験に成功している。−60℃、0.03気圧という成層圏の極限の環境下で、1日当たり5時間充電、1時間放電というサイクルを4回行い、3日間で12回の充放電サイクルにおいて、電池パックの保温機能や拘束圧の維持などに問題がなかいことを確認した。
実証実験に用いた電池セルは、Enpower Japanと共同開発したもので質量エネルギー密度は439Wh/kg。また、エナックスと共同開発した電池パックの質量エネルギー密度は275Wh/kgであり、目標とする300Wh/kgに近づいている。
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