AWSの生成AI基盤「Amazon Bedrock」で、竹中工務店は“デジタル棟梁”開発目指す:人工知能ニュース(2/2 ページ)
AWSは2023年10月3日、生成AIの活用基盤を提供するクラウドサービス「Amazon Bedrock」の東京リージョンでの利用を開始すると発表した。
AWSサービスの組み合わせでサーバレスの生成AIシステムを構築
竹中工務店はAmazon Bedrockの先行利用を行っていたユーザー企業の1社だ。2023年6月から利用を開始し、同サービスで利用できる基盤モデルの試用や、社内情報や技術標準のデータに基づくカスタマイズなどの試験を行ってきた。
現在、建設業界では人手不足に加えて、熟練者のノウハウ継承や人材育成などが大きな課題となっている。こうした課題の解決に向けて、竹中工務店は生成AIが大きな役割を担うのではないかと期待を寄せているという。生成AIの活用で目指す目標について、竹中工務店 執行役員 デジタル室長の岩下敬三氏は「一般常識を備えつつ、豊富な社内情報に加えて技術標準や過去の事例、実績などのデータに通じており、専門的なアドバイスを行える“デジタル棟梁”を開発したい」と説明した。
岩下氏はAmazon Bedrockの使用感について、基盤モデル間の評価が容易に行えたと語った。同社ではプレスリリースなどの文章要約、分類、コード生成、画像生成などのタスクについて、複数の基盤モデル間で性能評価を行ったが、使用したい基盤モデルをGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)上で切り替えながら、モデルごとの出力の特徴などを確認しつつ試験できたという。
社内データや専門情報とAmazon Bedrockの連携に当たっては、基盤モデルとしてClaude 2を用いた。社内ルールやPDF形式の技術標準書類、ノウハウ集をAmazon S3に格納した上で、Claude 2と機器学習を利用した企業向け検索エンジン「Amazon Kendra」を組み合わせることで、サーバレスのRAG(Retrieval Augmented Generation)形式を実現した。
一例として岩下氏は、専門知識のデータとして「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」を用いて試行した結果を紹介した。熱い時期に施工されるコンクリートを意味する「暑中コンクリート」について、打設時の注意点を具体的に教えて欲しいとリクエストした場合、生成AIは「日平均気温の平年値が25度を超える期間に打設するコンクリートは、暑中コンクリートとして取り扱う」「コンクリートの練り混ぜから打ち込み完了までの時間が長い場合、遅延剤やAE遅延剤を使用できる」などと返答する。
これに対して専門知識のデータを用いなかった場合は、「間違ってはいないが一般的な内容」(岩下氏)になっていた。両者を比較することで、今回同社が組み上げたRAGの有効性が確認できたという。
岩下氏はAmazon Bedrockについて「複数の基盤モデルを使える上、サーバレスで素早く環境を立ち上げられる。AWSが提供するサービスの1つなので、他のAWSサービスと連携させやすく、目的に合った開発がしやすいのもメリットだ」と説明した。同サービスに今後期待することとしては、日本語や長文に特化した基盤モデルの対応や、音声や映像、3Dデータへの対応といったマルチモーダル化を挙げた。
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