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「手先のイノベーション」を起こせ、産業用ロボットの可能性開く赤外線型の近接覚センサー羽田卓生のロボットDX最前線(6)(3/3 ページ)

本連載では「ロボット×DX」をテーマに、さまざまな領域でのロボットを活用したDXの取り組みを紹介する。第6回は近接覚センサーを開発するThinkerを取材した。

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より汎用性の高い「手先」を

 アームロボットを構成する基本技術は手先までほぼ完成したといわれている。確かに、全世界で数百万台もの産業用ロボットが稼働している現状を考えると、ロボットの大まかな動作を担うアーム部分の技術は既に確立されたといえるだろう。一方、ハンドやエンドエフェクターなど手先の部分はまだまだ開拓すべき、未来がある市場だ。

 「産業用ロボットの用途を広げるためには、手先のイノベーションが必要だ」と中野氏は指摘する。従来のロボット技術では特定のタスクに特化したエンドエフェクターが使用されることが一般的であったが、これからのロボットは、より多様なタスクに適応可能な機器の開発が求められる。

 この手先部分に新たな技術や機能を追加することで、多くの産業や業界に新たな価値を提供するビジネスモデルが生まれる可能性がある。より繊細な作業や人間の手が届かない狭い場所での作業など、これまで人の手によって行われていたタスクが、新しいエンドエフェクターによって自動化されることも考えられる。

 Thinkerの近接覚センサーの適用領域はまだ定まっておらず、これから市場開拓を模索していく段階だ。ソリューションではなく、いろいろなアームとエンドエフェクターで試せる売り切り販売モデルのキットを量産し、市場投入を試みている段階だ※2。市場からの反響を受けて、製品やビジネスモデルの今後の方向性が見えてくる。

※1(編集注):取材後の2023年7月31日、Thinkerは近接覚センサー「TK-01」の出荷を開始した。


近接覚センサー「TK01」[クリックして拡大]

ロボットが「当たり前」を手に入れ、ロボットありきが前提になる。

 月並みな課題表現になるが日本のどの産業も省人化対策は待ったなしだ。そして、永遠に復活しない人手不足時代に突入したといえる。出生率の急激な改善は望みにくく、さらに今の為替相場では外国人労働者の大幅な流入にも期待できそうにない。むしろ、日本から海外に出て働く人もいるくらいなのだ。産業用ロボットへのさらなる期待感が高まる。

 ところで先ほど、国内で約37万台もの産業用ロボットが既に働いていると述べたが、この数字は他国と比べてどうなのか? 国際ロボット連盟によると、日本の従業員1万人当たりでの産業用ロボットの稼働台数は364台になるという※2。つまり、労働者の約3〜4%程度しか産業用ロボットが普及していない。一方、日本の生産年齢人口は毎年数十万人規模で低下しており、回復のめどは全く立っていない。もはや我々は永遠に続く、労働者不足問題を抱えている状態に等しい。

※2:この数字は世界3位である。なお、世界1位はシンガポールで918台。

 Thinkerのような研究開発の取り組みは、ロボットにできる作業の幅をどんどん広げる。「当たり前」の作業がさらにできるようになれば、ロボットによる現場の省人化、無人化もさらに実現しやすくなるだろう。

⇒「羽田卓生のロボットDX最前線」バックナンバーはこちら


著者紹介:

ugo株式会社 取締役COO 羽田卓生(はだたくお)

1998年にソフトバンク入社後、出版事業部に配属。2007年のボーダフォン買収後は、通信ビジネスに主に従事。2013年、あらゆるロボットの制御を担う汎用の基本ソフト(OS)「V-Sido」を開発・販売するアスラテックの立ち上げ時より同社に参画し、現在同社のパートナーロボットエヴァンジェリストとして活動。2019年より、株式会社ABEJAに参画。2020年8月より現職。

任意団体ロボットパイオニアフォーラムジャパン 代表幹事、特定非営利活動法人ロボットビジネス支援機構(RobiZy)アドバイザーほか、執筆活動も行う。



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