「手先のイノベーション」を起こせ、産業用ロボットの可能性開く赤外線型の近接覚センサー:羽田卓生のロボットDX最前線(6)(2/3 ページ)
本連載では「ロボット×DX」をテーマに、さまざまな領域でのロボットを活用したDXの取り組みを紹介する。第6回は近接覚センサーを開発するThinkerを取材した。
シンプルなハードウェアと高度なAIの融合
AIと近接覚センサーの組み合わせがもたらす利点の1つは、センサーへの物理的な負荷を最小限に抑えつつ、高度な物体認識力を発揮できることだ。従来のタッチセンサーなどは物体と直接接触しなければならず、その際に負荷がかかり破損などのリスクが伴う。結果、「1万回まで」など使用回数の上限値が定められることになる。特に産業界では、この耐久性が非常にハイレベルなものが求められる。
しかし、Thinkerの近接覚センサーは接触することなく物体を認識できるため、摩耗を気にする必要がない。ロボットアームやエンドエフェクターの耐久性が向上し、メンテナンスコストを大幅に削減できる。
照射された赤外線は物体の形状や材質、色によって反射のされ方が変わる。得られる情報はランダムで、複雑な非線形データとなる。鏡のような平滑で光沢のある物体と、布のように凹凸があり光を吸収しやすい物体では、赤外線の反射の仕方が大きく異なることは理解していただけるだろう。
このような複雑なデータをリアルタイムで解析し、ロボットアームの動きに変換するのは技術的に難しい。Thinkerはエッジデバイス側の近接覚センサーで高速かつ高度に情報を処理しつつ、アーム側にも命令を与えている。中野氏は「センサーデバイスは模倣できたとしても、赤外線センサーを解析するAIのアルゴリズムはそう簡単にはいかない」と語る。
これらの技術の連携により、ロボットの労働範囲は飛躍的に拡大し、多くの産業でさらなる自動化が可能となる。非接触で高度な作業を実現するこの技術は、ロボットが「当たり前」の作業をこなす新しい時代を切り開く。
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