ヤマハ発動機が医療分野で新会社、表面実装機から生まれた抗体プロファイリング:医療技術ニュース(2/2 ページ)
ヤマハ発動機は、血液中の抗体を分析して健康状態を可視化する抗体プロファイリング事業を展開する新会社を設立したと発表した。この抗体プロファイリング事業は、ヤマハ発動機が高シェアを持つ表面実装機事業に源流があるという。
疾患関連抗体バイオマーカーの“ディスカバリーエンジン”に
タンパク質マイクロアレイでは神経変性疾患に関わる特異的な抗体を絞り込むなどの成果が得られており、有効な対処法が見つかってない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症についても特異的な抗体を絞り込んでそれらの相互作用を分析するパスウェイ解析なども行っている。今後も、がんや中枢神経疾患、COVID-19後遺症などを中心に、疾患関連抗体バイオマーカーの“ディスカバリーエンジン”としての技術開発を進めていく方針である。
なお、チューニングフォーク・バイオの事業展開としては米国が先行し、その実績を基に日本で展開していくことになる。これは、抗体プロファイリングのようなバイオマーカー関連の市場規模が米国が日本の約10倍と大きいからだ。また、薬事関連の承認については、B2Bで事業展開する場合にはLDT(Laboratory Developed Test、薬事未承認検査)で対応可能としており、薬事承認は特定の疾患に関する健康診断を直接行うB2C事業の段階で検討する。また、他社との事業提携も積極的に進めたい考えで「自身で1%出資しているのは、他社からの出資が可能なことを示す意味合いもある」(引地氏)としている。
なぜヤマハ発動機が抗体プロファイリング事業を手掛けるのか
ヤマハ発動機は2024年までの中期経営計画において、新規事業によって売上高を300億円創出することを目指している。この新規事業の中に医療健康領域が入っており、チューニングフォーク・バイオの売上高数億円もこの300億円に含まれることになる。
ただ、ヤマハ発動機がいきなり医療健康の新規事業を始めるといっても、既存事業との関わりが見えづらい。実は、ヤマハ発動機の医療健康事業は、2017年に発表した細胞ピッキング&イメージングシステム「CELL HANDLER」から始まっている。このCELL HANDLERは、同社が高シェアを持つ表面実装機事業の技術を医療分野に応用することを目的に開発された。μmサイズの細胞を狙ったものだけ選んで取り出すことが可能であり、研究機関や製薬企業への導入実績がある。
このCELL HANDLERを発表と同年の2017年に導入したのが、タンパク質マイクロアレイを手掛けるTRセンターである。また同じく2017年に、ヤマハ発動機の研究本部内でも医療デバイスを対象とするMDB(Mediacl Device Business)部が発足しており、2018年に日本の抗体ベンチャーに出資し、2019年にオランダの研究機関とCELL HANDLERを用いた共同研究を始めるなど、医療健康領域での取り組みを着実に積み上げていた。そして、2020年にはCELL HANDLERの導入から良好な関係にあったTRセンターとの間で、抗体プロファイリングの事業化に向けたタンパク質マイクロアレイの共同研究も始めていた。これらの積み重ねとして発足したのが、新会社のチューニングフォーク・バイオというわけだ。
ただし、チューニングフォーク・バイオの事業において、CELL HANDLERの活用はB細胞を取り出す必要がある際に行うオプションの位置付けになっており、CELL HANDLERの事業とは切り離されている。ヤマハ発動機の研究開発本部では、表面実装機の進化に合わせたCELL HANDLERの新たな技術開発も進めており、その中で開発された技術がチューニングフォーク・バイオの事業に反映される可能性もあるとしている。
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