ヤマハ発動機が医療分野で新会社、表面実装機から生まれた抗体プロファイリング:医療技術ニュース(1/2 ページ)
ヤマハ発動機は、血液中の抗体を分析して健康状態を可視化する抗体プロファイリング事業を展開する新会社を設立したと発表した。この抗体プロファイリング事業は、ヤマハ発動機が高シェアを持つ表面実装機事業に源流があるという。
ヤマハ発動機は2023年9月27日、オンラインで会見を開き、血液中の抗体を分析して健康状態を可視化する抗体プロファイリング事業を展開する新会社「チューニングフォーク・バイオ」を設立したと発表した。米国と日本で、研究機関向けの抗体分析、医療機関が行う健康診断や最適な薬の選択、製薬会社の創薬研究などB2Bで事業を展開するとともに、将来的にはがんや中枢神経系疾患など特定の疾患に関する健康診断をB2C事業として展開することも想定している。2024年の売上高目標は数億円で、5〜10年後にはその10倍まで売上高を伸ばしたい考えだ。
チューニングフォーク・バイオは、2023年5月に米国デラウェア州に設立した「Tuning Fork Bio, Inc.」が本社で、同年7月に東京都中央区に設立した100%子会社の日本法人「株式会社チューニングフォーク・バイオ・ジャパン」から構成されている。米国本社のCEOと日本法人の代表取締役は、ヤマハ発動機 研究本部 フェローを兼務する引地裕一氏が務める。従業員数は、米国本社が2〜3人、日本法人が3人。ヤマハ発動機からチューニングフォーク・バイオ米国本社への出資比率は99%となっているが、残りの1%は引地氏が出資している。
社名のチューニングフォークは、ヤマハ発動機のブランドロゴにある音叉(Tuning Fork)に由来しており、人々の健康やライフスタいるを「調律」するという意図が込められている。
チューニングフォーク・バイオが事業の中核とする技術は、福島県立医科大学の医療−産業トランスレーショナルリサーチセンター(TRセンター)が確立した、1万数千種類以上のタンパク質を高密度にスライドガラス上に転写する「タンパク質マイクロアレイ」を用いて血液中の抗体を分析する抗体プロファイリングだ。
引地氏は「現在、疾患の診断に用いられている血液中のバイオマーカーとしてはDNAやmRNAなどがあるが、より詳細な情報が得られるタンパク質については解析手法が少ない。新会社では、タンパク質の一種である抗体を用いて、疾患が発症する手前の未病状態を把握することで、疾患発症を未然に抑えることを目指す」と語る。
TRセンターが開発したタンパク質マイクロアレイは、世界最高レベルとなる総計2万種以上のタンパク質をカバーしており、抗原抗体反応から得られるデータの正確性で極めて優れているという。チューニングフォーク・バイオの事業は、このタンパク質マイクロアレイから得られた抗原抗体反応のデータに対して、ヤマハ発動機が保有する技術を基に独自に開発したバイオインフォマティクス(生命情報科学技術)によって解析することが起点となる。その後、1万数千種のタンパク質を使うタンパク質マイクロアレイから、特定の疾患に対応する約100種類のタンパク質に絞り込んだ「フォーカスアレイ」の開発を進める。さらに、約10種類のタンパク質に絞り込んだフォーカスアレイの開発につなげて、臨床での検証や診断に活用できるようにする方針だ。
当初の事業は、大学や研究機関を対象にタンパク質マイクロアレイを用いたデータ解析結果の提供から始める。フォーカスアレイの開発に合わせて、製薬企業が創薬研究の際に行う患者の層別化や、医療機関で患者ぞれぞれに最適な診療や投薬を行う個別化医療の支援などにも事業を広げていく方針。将来的には、タンパク質の数をより絞り込んだフォーカスアレイを用いて特定の疾患に関する健康診断も行っていきたい考えだ。
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