製造業でデータ共有圏が広がる背景と、データ共有のインパクト:加速するデータ共有圏と日本へのインパクト(2)(5/5 ページ)
本連載では「加速するデータ共有圏(Data space):Catena-XやManufacturing-Xなどの最新動向と日本への産業へのインパクト」をテーマとして、データ共有圏の動向やインパクトを解説していく。今回はデータを共有することのインパクトを紹介する。
(4)サプライチェーン分断のリスクへの対応
続いて、サプライチェーンからの断絶のリスクについて触れたい。今後いかにデータをつないだかが価値になる中で、サプライチェーン内の企業やデータを提供する企業での「取り合い」となってくる。現状は物理的なコンポーネントの供給/調達取引関係をもとにサプライチェーンが形成されているが、そうした物理的な供給/調達取引関係に限らず、異業種を含めてデータを接続し、それぞれの強み(ノウハウ、アプリケーション)を持ち寄り、競争力強化を図る緩やかな「デジタルケイレツ型」連携も生まれてきている。
そうした中で、現在欧州のデータ共有圏の議論ではトークンの発行などデータ共有のインセンティブをいかに設計するかが議論されている。既存のサプライチェーンにおいても、自社のデータエコシステムの仲間になってもらうインセンティブやメリットの提示が問われるようになる。
また、今までのトレーサビリティーの仕組みのように、欧州などの完成品メーカーはサプライヤーに対してデータ共有の仕組み整備を取引条件とする可能性も高い。こうした中で、日本企業のサプライチェーンはアジアをはじめグローバルに広がっているが、仮に日本がデータ共有の仕組みを整備できていないとサプライチェーンから取り残されるリスクもあり得るのだ。
(5)生成AIの加速においてもデータ共有が鍵になる
加えて昨今あらゆる産業での活用が急速に広がっている生成AIにおいてもデータ共有が重要な論点となる。土台となる大規模言語モデル(LLM)の構築においては莫大なデータが必要となるが、ドイツにおいては「Open-GPTデータスペース」プロジェクトの中でデータ共有を通じたLLM構築の取り組みも進む。
また、生成AIの活用としては、既存のモデル活用(生成AI活用1.0)とともに、自社や産業の踏み込んだデータを投入することでより自社の用途に応じてカスタマイズした自社内活用(生成AI活用2.0)にカスタマイズ(ファインチューニング)することができる。さらには、それら自社や産業のデータをもとにファインチューニングしたモデルを活用して、SaaSなどデジタルサービス化して他社へ外販することにもつながってくる。
例えば生産計画や現場改善などに強みを持っている企業であれば、それらのノウハウやデータを集中的に学習させることで、そのノウハウを外販することも可能になるのだ。そうした際にサービスの競争力を強化するために自社データのみならず他社データを補完していくことも重要となる。
より汎用性を増していく上でも、学習にあたり自社で足りないデータを補完する上でも、他社とのデータ共有も有効なのだ。今後他社とデータ連携した生成AI活用も増えていくことが想定される。
このようにインダストリー5.0への産業コンセプトの構造変化や、これからますます求められるデジタルサービスの創出、オペレーションの高度化やDX、社会や環境対応、さらには生成AIなどの動向の中でデータの重要性が増してきている。
これらの取り組みを加速化させ、自社のデータのみならず他社データを連携することによるレバレッジが企業の競争力を左右する。第3回以降ではIDSA(International Data Space Association)、GAIA-X、Catena-X/Cofinity-X、Manufacturing-Xなどの主要組織の取り組みについて触れたい。次回はデータ主権を掲げデータ共有の取り組みを進めるIDSAについて紹介する。
→連載「加速するデータ共有圏と日本へのインパクト」バックナンバー
筆者紹介
小宮昌人(こみや まさひと)
JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 プリンシパル/イノベーションストラテジスト
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所を経て現職。2022年8月より政府系ファンド産業革新投資機構(JIC)グループのベンチャーキャピタルであるJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(VGI)のプリンシパル/イノベーションストラテジストとして大企業を含む産業全体に対するイノベーション支援、スタートアップ企業の成長・バリューアップ支援、産官学・都市・海外とのエコシステム形成、イノベーションのためのルール形成などに取り組む。また、2022年7月より慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員としてメタバース・デジタルツイン・空飛ぶクルマなどの社会実装に向けて都市や企業と連携したプロジェクトベースでの研究や、ラインビルダー・ロボットSIerなどの産業エコシステムの研究を行っている。加えて、デザイン思考を活用した事業創出/DX戦略支援に取り組む。
専門はデジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
- 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp
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