ワイドバンドギャップ半導体単結晶の市場規模は2030年に17倍に成長:製造マネジメントニュース
矢野経済研究所は、世界のワイドバンドギャップ半導体単結晶市場を調査したレポートで、2030年のワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場を3176億1200万円になると予測した。
矢野経済研究所は2023年8月28日、世界のワイドバンドギャップ半導体単結晶市場を調査したレポートで、製品セグメント別の動向、参入企業動向、将来展望を発表した。
シリコン(Si)を代替する半導体材料として、ワイドバンドギャップ半導体単結晶はパワー半導体(デバイス)を中心に採用が進んでおり、市場も年々拡大している。
今回のレポートでは2022年のワイドバンド半導体単結晶世界市場(メーカー出荷金額ベース)を182億7100万円と推計し、2023年の同市場は前年比147.1%の268億8500万円になると予測する。
材料別に2023年の市場をみると、炭化ケイ素(SiC)が202億9300万円(構成比75.5%)、窒化ガリウム(GaN)は46億4700万円(同17.3%)、酸化ガリウム(Ga2O3)が5億3100万円(同2.0%)、窒化アルミニウム(AlN)は10億8000万円(同4.0%)、ダイヤモンドが3億3500万円(同1.2%)の見込みで、多くのアプリケーションに採用されているSiCが市場の4分の3を占める見通しだ。
具体的には、SiCは本格的な成長ステージに差し掛かっており、市場は2025年以降、車載アプリケーションへの本格的な採用が急成長のポイントとなる見込みだ。GaNは足元状況ではLEDやLDなどの照明用途が中心であるが、パワーデバイスや高周波用途では非常に優れた特性を持ち、これまでの課題であった大口径化や大量供給にめどが立ち、GaN on GaNデバイスとして展開されるタイミングが近づきつつある。
Ga2O3はSiCデバイスと比較しコスト/性能などのポテンシャルが高く、参入プレイヤーも増えてきている。研究/開発期間の短さをカバーする成果が次々と発表されていることから、後発ながらもパワーデバイス市場に食い込む勢いだ。AlNは深紫外線のLED用単結晶として、コロナ禍の影響もあり、一定の需要を底堅く獲得している。しかし、サファイア基板を用いたタイプの深紫外線LEDの性能が向上しており、AlN基板の強みを出せる領域への展開が課題とされる。ダイヤモンドは急成長の兆しがある。国内単結晶メーカーがIPOで資金調達し生産能力を上げており、大学など研究機関による世界最高性能のデバイスも開発されている。
さらに、2023年現在、Orbray(オーブレー)からは直径2インチのダイヤモンドウエハーの供給が始まろうとしていることに加え、大熊ダイヤモンドデバイスでもダイヤモンドを使用した電子デバイスの量産化が準備されている状況にある。
次世代半導体材料のウエハーとして市場拡大するためには、優れた物質特性を持つダイヤモンドは、ニッチであるが非常に付加価値が高く、他の材料が対応しきれないニーズがあるデバイスに搭載されることが必須となる。ダイヤモンド基板でしか実現できないデバイスは活躍の規模こそ小さいが、重宝されるポジションを獲得できればそのプレゼンスが強固なものになる見込みだ。
将来の展望に関して、ワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場は今後のパワーデバイスの採用拡大に伴い、市場は拡大基調で推移する見通しだ。2030年のワイドバンドギャップ半導体単結晶市場(メーカー出荷金額ベース)を3176億1200万円と予測する。材料別市場規模をみると、SiCが3073億4800万円、GaNは52億8000万円、Ga2O3が30億5600万円、AlNは13億5000万円、ダイヤモンドが5億7800万円と見込む。また、材料別構成比はSiCが96.8%を占めており、量産/普及時期となる材料とそれ以外の差が顕著になる見通しだ。
SiCでは口径6インチウエハーが市場のほとんどを占め、8インチの市場投入も始まるタイミングが見えつつある。商流の川上川下含む提携や関連する企業も増えている。ワイドバンドギャップ半導体単結晶同士での競争も激しくなりつつあり、性能やコストの競争により新規材料の将来が決まることになる見通しだ。
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