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少ないゲート数や回路実行回数で大規模電子系のグリーン関数を計算できる新手法:マテリアルズインフォマティクス
QunaSysは富士通との共同研究で、大規模電子系のグリーン関数を量子コンピュータで効率よく計算する手法を開発した。従来よりも少ない量子ゲート数や回路実行回数で計算できる。
QunaSysは2023年8月4日、富士通との共同研究で、大規模電子系の「グリーン関数」を、量子コンピュータで効率よく計算する手法を開発したと発表した。
同手法では、2022年にQunaSysが理化学研究所、大阪大学と共同で開発した「局所変分量子コンパイル(LVQC)」という手法を応用している。粒子が多数集まった大規模な量子多体系から小さな部分系を抽出し、量子回路を変分最適化により設計。この変分最適化計算で得られたパラメーターを用いて、目的の大規模量子多体系のグリーン関数を計算する。得られたグリーン関数はさまざまな物性計算に適用できる。
同手法を、物質中の電子をモデル化した物理模型の一つで、金属、絶縁体、超伝導体など、物質のさまざまな状態を説明できる1次および2次元のフェルミオン・ハバード模型に適用したところ、小規模な量子系での最適化だけで決定したLVQCの結果を基に、より大きな系においてグリーン関数や状態密度を効率よく、正確に計算できた。
また、20×20サイトのフェルミオン・ハバード模型は古典コンピュータでは計算が困難だが、同手法を用いれば、従来のトロッター分解と比べて必要なゲート数や量子回路の実行回数を大幅に削減できることが分かった。
同手法の性能の検証結果。青い点は同手法の計算結果、黒い実線が正確な計算結果を表す。(a)4×2サイト格子(16量子ビット)の2次元フェルミオン・ハバード模型に対するグリーン関数の時間依存性。(b)4×4サイト格子(32量子ビット)の2次元フェルミオン・ハバード模型に対する状態密度の計算結果[クリックで拡大] 出所:QunaSys
同社は、量子コンピュータを用いたグリーン関数の計算により、物質中の電子が強く影響し合う強相関電子系の研究や、高機能素材の開発、デバイスの設計などに応用できると考えている。
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