最初の変異獲得から発症まで、乳がん発生の進化の歴史を解明:医療技術ニュース
京都大学は、乳がんの詳細なゲノム解析により、思春期前後に生じた最初の変異獲得から数十年後の発症までの全過程を明らかにした。がんの増殖、拡大、進化は、女性ホルモンの1種エストロゲンが関与していることが示唆された。
京都大学は2023年7月27日、乳がんの詳細なゲノム解析により、思春期前後に生じた最初の変異獲得から数十年後の発症までの全過程を明らかにしたと発表した。東京医科歯科大学、慶應義塾大学らとの共同研究による成果だ。
研究ではまず、加齢に伴って乳腺細胞に蓄積される遺伝子変異について知るため、1つの細胞に蓄積する遺伝子変異を調べた。その結果、閉経までに毎年20個程度の変異が乳腺細胞に蓄積することが分かった。閉経後は、その蓄積速度が約3分の1に低下すること、1回の妊娠と出産で約50個の変異が減少していた。
閉経後に蓄積速度が緩やかになることから、女性ホルモンの1種エストロゲンが変異の蓄積に関与していることが示唆された。一方で、妊娠と出産に伴う変異数の減少は、乳腺組織が再構築され、変異を蓄積していない細胞に置き換わる可能性が示唆された。
次に、乳がんの進化を解明するため、がんとその周囲の一見正常に見える組織を解析。正常に見える組織の中にも、がんと同一の染色体異常der(1;16)転座が存在していた。der(1;16)転座は、1番と16番染色体の間で異常な再構成がなされた派生染色体で、乳がん全体の約20%に認められる変異だ。
がんとがんではないクローンに見られるder(1;16)転座は、共通の1つの細胞を起源としており、思春期前後にこの変異を獲得したと推定される。
変異の獲得から発症までの数十年の間に、染色体異常を獲得した非がんクローンは、周囲の上皮を置き換えるように増殖、拡大する。一方で、乳腺の各所で独自の変異を追加で獲得しながら、正常な上皮から増殖性病変、がんに至るまで、さまざまな形態の上皮を形成した。つまり、共通の祖先を持つder(1;16)転座クローンから、複数のがんがそれぞれの時間経過で生じることが明らかとなった。
こうした乳がんの進化は、der(1;16)転座を有する乳がんで共通に認められる特徴と考えられる。また、der(1;16)陽性乳がんのホルモン感受性は90%以上であること、閉経後の発症では周囲に非がんクローンの拡大がほぼないことから、der(1;16)陽性非がんクローンの増殖、拡大、進化は、エストロゲンにより促進され、閉経時にがん化していない上皮はエストロゲンの急激な減少で消退すると考えられる。
今回、変異獲得からがん発症までの全体像を明らかにしたことで、乳がんの発症予防や早期治療の開発への貢献が期待される。
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