設計者なら知っておきたい! デザイナーの要求をかなえる加工技術10選[前編]:設計者のためのインダストリアルデザイン入門(6)(1/4 ページ)
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は設計者が押さえておきたいデザイナーの要求をかなえる加工技術10選のうち、頻出する5つの加工技術を[前編]として紹介する。
デザイナーと設計者の間には、しばしば“わがまま”とも取れるデザイナーの要求が飛び交います。しかし、これらの要求は製品の品質やデザイン性を高めるためのものであり、実現さえできれば大きな差別化要素となるため、無下にはしにくいものです。
一方、設計者自身があらかじめデザインの幅を広げる加工技術を多く知っていれば、そのプロジェクトでの設計者とデザイナーとのコミュニケーションは円滑になります。さらに、互いの情報を共有することで、新しいデザインのアイデアが生まれる可能性もあります。
そこで今回は、デザイナーの要求、特に外観(意匠)に関する要求をかなえるための加工技術10選を[前編][後編]に分けて紹介します。10選には設計者であれば誰もが知っている基本的なものから、マニアックな技術まで幅広く含んでいます。デザイナーの要求に日々悩まされている、あるいは製品の意匠性にこだわりを持ちたいと考えている設計者の皆さんはぜひ参考にしてください。
はじめに:加工技術を選定する際に考慮すべきこと
具体的な技術紹介の前に、加工技術を選定する際に考慮すべきことについて解説します。
意匠の話に限らず、加工技術の選定は製品設計で必ず発生します。しかし、その選定は決して単純なものではありません。例えば、お金の話。加工技術ごとに初期投資や部品費が異なるため、少なくともその製品の企画台数がどの程度であるのか、その製品の想定販売価格がいくらなのかという情報は前提条件として必須です。
また、費用面の考慮だけではなく、加工方法ごとの特性、同業界での採用実績、自社が利用可能なサプライヤーの有無も考慮に入れなければなりません。つまり、設計者は該当の加工方法の表面的な方法論だけでなく、さまざまな制約やリスクの理解を含む深い知識と経験が求められます。
これらの点を踏まえ、本稿では各加工技術の概略に加えて、すぐに使えるであろう実務観点での要所/勘所についてもできる限り解説していきます。
1.シボ加工:樹脂部品
まず、樹脂を用いた製品で必ずといってよいほど使用される「シボ加工」について説明します。シボ加工は、材料の表面に模様や凹凸を付ける加工方法であり、立体感や質感を出すことで製品の外観に深みを与えます。また、シボ加工は製品に視覚的な変化を追加するだけでなく、人が製品に触れるときの「感触のコントロール」「滑り止め」「光沢防止」「ウェルドライン隠し」「成形品の傷防止」など、さまざまな目的で利用されます。
特に、金型で成形する樹脂部品のシボ加工を行う場合には、金型そのものに模様を彫り込み、成形時に模様を転写します。これらは、単純な凹凸だけでなく、さまざまなテクスチャーやパターンが表現可能で、細かいディテールまで再現できます。例えば、「PlayStation 5」のコントローラーには〇×△□で表現されたオリジナルのシボが採用されており、話題になりました(関連記事:PS5のコントローラーに隠された“秘密”が話題 表面のザラザラを拡大すると……?)。
シボメーカーによって、さまざまなパターンが用意されていますので、主要メーカーのサンプルを手元に取り寄せておくと便利です。また、デザイナーが所有しているシボサンプルが現在自社で抱えているサプライヤーでは使用できない場合も多々ありますので、最終製品の仕上がりの認識を合わせる観点からも、共有可能なサンプルの存在は重要です。
金型に対して行うシボ加工にはいくつかの種類があります。代表的なものでは、金型表面を薬剤によって化学除去加工する方法(エッチング)、ショットブラストによる物理的な除去加工で凹凸を付与する方法などです。エッチングにも電気化学溶解を利用する「電解エッチング」と化学的溶解を利用する「化学エッチング」といった方法があります。
シボ加工は金型さえできてしまえば、連続的に同様の加工が行えるため、大量生産製品ついては低コストで外観品質を高めることが可能です。ただし、シボの種類、樹脂温度、金型温度、保圧、保圧時間などによって、出来栄えや金型の耐久性、設計制約(抜き勾配など)が変化するため、これらについては留意が必要です。
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