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設計者なら知っておきたい! デザイナーの要求をかなえる加工技術10選[前編]設計者のためのインダストリアルデザイン入門(6)(3/4 ページ)

製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は設計者が押さえておきたいデザイナーの要求をかなえる加工技術10選のうち、頻出する5つの加工技術を[前編]として紹介する。

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4.塗装:金属

金属塗装のイメージ
金属塗装のイメージ[クリックで拡大] 出所:iStock/gilaxia

 続いて解説するのは「塗装」です。塗装は色や質感を自由に変えることができ、保護機能も持つ基本的な加工方法です。今回紹介する加工技術の中では、塗装が一般には最もなじみ深いかもしれません。玩具屋さんのプラモデルコーナーに置いてある缶スプレーも塗装手段の一つです。しかし、塗装といってもその方法はさまざまあり、用途によって使い分けが必要です。

 まずは、板金や鋳物などの金属部品に対して使用できる塗装について解説します。塗装方法はさまざまありますが、代表的な金属加工部品向けの塗装について、その概略を説明します。なお、金属によって相性の良い塗装と相性の悪い塗装があり、適切な塗装方法を選ばなければ、塗料がすぐに剥がれてしまい、その機能を失う可能性があります。従って、デザインを品質高く、持続させるためには目的に合った塗装方法を選択することが重要です。

溶剤塗装

 「溶剤塗装」は、シンナーなどの有機溶剤に顔料などを混ぜた塗料を塗布する方法です。塗装の中で最もスタンダードな方法で、ハケやスプレーを使って物体に塗料を塗っていきます。先に挙げた、プラモデルコーナーの缶スプレーもこれに当てはまります。溶剤塗装は、他に比べて塗料が安く、調色のハードルが低いといったメリットがあります。一方、汎用(はんよう)的なものは塗膜強度が高くないため、人が頻繁に触れるような場所に使用する場合には留意が必要です。また、職人の技量によって品質が大きく異なりますが、良い職人さえ見つかれば、さまざまなこだわりの塗装が可能となります。

焼付塗装

 「焼付塗装」は、塗料に熱を加えて揮発させることで、乾いたときに硬化し、強度を高める塗装方法です。皮膜を硬化させるに当たって100℃を超える高温にします。溶剤塗装と比べて、焼付塗装は部品と塗膜の密着性が高く、耐候性が求められる環境下で高い効果を発揮します。メラミン、フッ素、アクリルと、焼付塗装にも大きく分けて3つの種類があり、目的に応じて選択が必要です。また、焼付塗装のデメリットは、塗装できる対象物が限定されることです。前述の通り、塗装時に加熱する必要があるため、その温度に耐えられる素材でなければ塗装できません。

粉体塗装

 「粉体塗装(パウダーコーティング)」は、粉末状の塗料を静電気によって付着させた後、加熱溶解することで塗膜を形成する塗装方法で、焼付塗装の一種でもあります。液状の塗料よりも塗膜が厚いため、表面強度、耐食性、耐候性などにも優れています。その特徴から、自動車や家電製品などに多く用いられます。また、吹き付けた後に飛散した塗料を回収、再利用することが可能で、高額の塗料を無駄なく活用できるのも、溶剤塗装と比較した際の利点です。

電着塗装

 「電着塗装」は、塗料が入った液体の中に加工物を入れて電気を流すことで、塗料を加工物に付着させ、塗膜を形成する塗装方法です。スプレーなどと異なり、複雑な形状の素材にも均一な塗膜を形成できる他、膜厚管理などもしやすいため、大量生産に向いている塗装方法です。その一方で、塗装をするためには専用の設備や準備が必要となるため、小ロットの生産には不向きといえます。なお、前述のメッキと加工方法が似ていますが、表面の塗膜が塗料になるため塗装に分類されます。

静電塗装

 「静電塗装」は、静電気によって帯電した塗料を加工物に引き寄せ、塗膜を形成する塗装方法です。塗料を効率良く付着でき、均一で美しい塗膜を成形できることが特徴です。高電圧を利用するなど危険性も高く、主に産業用ロボットなどを用いたライン生産方式が適しており、自動車や家電製品、オフィス機器などの塗装に用いられます。

 なお、塗装を行うに当たっては、塗装工場と塗装メーカーの2つの会社が登場します。発注元である設計者は、主に塗装工場とコミュニケーションをとって塗装指示することになります。ただし、特殊な塗料を使用する場合や、戦略的な観点で塗料メーカーと直接協議を行った際など、塗装工場に対して指定塗料を供給するという方法もしばしばあります。従って、難しい塗装表現を行いたい場合には、塗料メーカーと直接相談できる環境を作っておくことをお勧めします。

 費用の観点で、どの塗装方法も共通していえるのは、汎用色であれば比較的安価ですが、色にこだわりがある場合は基本調色が必要であり、調色料金やイニシャルコストが必要になります。

 また、各社の塗装サンプルの他に、「DIC」や「PANTONE」などのカラーチップがあると色の決定や管理がしやすいので、手元に置いておくとよいでしょう。

「PANTONE」のカラーチップのイメージ
「PANTONE」のカラーチップのイメージ[クリックで拡大] 出所:iStock/scyther5

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