検索
特集

EVと循環型社会の主役になるのは「オートリース会社」電動化

ディー・エヌ・エー(DeNA) フェローの二見徹氏による講演「EV普及の鍵を握るデータ活用と流通システムの革新」の内容を紹介する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 アイティメディアの産業向けメディアであるMONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンは2023年6月6〜12日までの期間(オンデマンド配信は6月30日まで)、オンラインセミナー「カーボンニュートラルテクノロジーフェア 2023夏」を開催した。本稿ではその中で、基調講演を務めたディー・エヌ・エー(DeNA) フェローの二見徹氏による講演「EV普及の鍵を握るデータ活用と流通システムの革新」の内容を紹介する。

世界から大きく後れを取る日本のEV市場


DeNAの二見徹氏[クリックで拡大]

 日本のEV(電気自動車)市場は2022年に軽自動車タイプのEVが投入されたこともあり、ようやく盛り上がりがみられるようになってきた。

 世界全体のEV市場規模171万台(2020年度)の中で、日本市場でのEV販売台数は中国/米国/欧州と比べて桁違いに少ない。最初にEVが投入された2010〜2011年当時は日本が世界トップクラスだったが、2020年には主要国最下位となった。他国が指数関数的に拡大を見せる中、唯一日本だけが変化がなく、最近ではむしろ減少していた。

 ただ、コロナ禍において、2021年まで新車販売に占めるEV比率は1%以下だったが、2022年に日産自動車と三菱自動車が発売した軽EVの新車により、2022年度のEV比率は1.71%(軽EV含む)に上昇した。EVの普及に向けては、充電インフラの拡充も重要となるが、日本の充電器の設置台数は2016〜2017年当時までは世界トップクラスであったものの、このころから頭打ち状況にある。

EV普及への課題とは

 EVの車体価格はエンジン車と比べてまだ高いが、軽EVの登場で低下の傾向がみられ、早々にエンジン車と同等の金額になることが予想される。一方で、充電インフラの普及が遅れているため、日本でのEV普及のボトルネックは「満充電から走行可能な距離」になりそうだ。

 しかし、EVにおいてこの「走行可能距離」を把握することは難しいという。エンジン車のように1l(リットル)の燃料でどの程度走れるという予想がつかないためだ。「実際に、バッテリーの大きさなどの基本性能だけでなく、走行環境(地域、道路環境)やドライバーの運転の仕方などで大きく変化するため、実用走行距離はカタログの数値から予想することは難しく、この部分は未解決な課題となっていた」と二見氏は指摘する。

 走行実験で、緩やかな加速や一定速度で走るという「エコ運転」と、一気に加速して速度を一定に保たないなどの「荒い運転」を比較すると、一充電での走行可能距離は「エコ運転」では190km、「荒い運転」では114kmという結果もある。さらに、エンジン車の実用燃費は季節に関係なくカタログ燃費に対して何割減かのほぼ一定の比率で推移するが、EVの実用電費は季節により大きく差があり、車両ごとにも差があるということが分かっている。この点が走行可能距離を予想することをより難しくしている。

「乗る前に走行可能距離を知る方法」は

 実用走行可能距離は、実用電費(エンジン車における燃費)とバッテリーの容量をかけることで得られる。このモデルベースのシミュレーションを行うために自動車メーカーでは車両モデル、環境モデル、運転モデル、バッテリーモデルの4つのモデルを用いる。実用電費を求めるには各モデルを使い、バッテリーに関しては温度管理やバッテリー充電の回数などで変わるためこれらを考慮したバッテリーモデルを使う。この4つのモデルの計算量は膨大だが、この計算ができると車検や点検、運転管理台帳などの基本情報に加えて初期値を与えることで、現在使用中の任意のエンジン車、ハイブリッド車から用途に適したEVへの乗り換え検討が可能となる。

 この仕組みを汎用化し、Webツールで使えるようにしたのが新たに開発したEVシミュレーター「FACTEV」だ。DeNAがこれまでプラットフォームやインターネットサービスの運用で培ったデータサイエンスやAI(人工知能)の技術と、自動車技術とを組み合わせ、現在乗っているクルマの車検証や定期点検情報、運行管理台帳情報などの基本情報で、車両の使われ方を推定。さらに、走行地域の道路特性や気象情報の分析を加え、用途に合った候補のEVを選定し、実用性能(実用走行距離やバッテリー状況)や導入効果をデータで提供する。

 シミュレーションには、車載器から取得するCANデータなど新たに情報を追加する必要がないため、すぐに候補EVや実用性能、導入効果予測をユーザーに提示できる。

データ活用がカギを握る

 軽EVで計算した場合、1月が最も走行可能距離が短くなるが、1日でユーザーが乗る最大距離を走行可能距離が上回っていれば、ある程度余裕をもってEVに乗り換えることができ、下回れば途中で充電を行うことを考えなければならなくなる。

 実際に東京でシミュレーションした結果、導入初年度の一充電での走行可能距離は1月に109kmで、5年後にはバッテリーの劣化により102kmとなった。カタログ上では180km走れることになっているが、季節や運転の仕方により、走行可能距離は変化する。また、同じシミュレーションを札幌に変更すると1月は89km、5年後には84kmとなる。「こうした検討により、走行可能距離や必要な充電量が把握できるので、充電計画が立てられる」(二見氏)。

 さらに、今回モデルベースのシミュレーターで、エンジン車などの現実に近い数値を計算しているので、エネルギーコストの比較、CO2削減効果の比較が可能となり、脱炭素に向けてのロードマップ作製にも役立てることができる。この他、バッテリーの状態の予測もでき、容量変化の推移(残存性能)も予測可能となる。

サーキュラーエコノミーの実現と次世代流通モデルへの移行

 DeNAは、FACTEVの提供により、EVの普及と運用を活性化することで、脱炭素やサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に貢献する方針である。サーキュラーエコノミーは従来の大量消費を前提としたリニア型経済とは異なり、「再利用」で長く使うことで生産を抑制、「再資源化」で廃棄や原料の使用を減らすことでCO2排出を削減する仕組みだ。

 サーキュラーエコノミーでは製品を市場に長く滞留させることを目指す。EVについても売却せず、例えば大手リース会社が資産として持ち続け、導入フェーズから運用フェーズにわたりEVとバッテリーデータを一貫して管理していく仕組みを提案する。FACTEVで新車EVの導入、リユースのEV再導入を支援し、導入後はデータの「見える化」で稼働率を高める。

 そして、オートリース会社のマルチブランドによる多様性の強みを生かしたビジネスエコシステムの構築を図る。その結果、データ活用による用途と性能のマッチングを基礎に、運用支援やサービス連携を組み合わせることで循環型流通が形成されることになる。具体的には従来の流通モデルである新車受注→リースアップ→中古市場売却(オークション)→大量廃棄(もしくは海外売却)という流れから、オートリース会社がEVとバッテリーを使いつくすことで利益を創出するという次世代の流通モデルを目指す。

→その他の「電動化」関連記事はこちら

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る