日産「サクラ」でエレベーターを動かす、10時間運転後のバッテリー残量は46%:電動化
日産自動車と日立ビルシステムは、EVが給電して停電時にエレベーターの利用を可能にするV2Xシステムの普及に向けて協力する。
日産自動車と日立ビルシステムは2023年1月27日、EV(電気自動車)が給電して停電時にエレベーターの利用を可能にするV2Xシステムの普及に向けて協力すると発表した。第1弾の取り組みとして、軽EVの「サクラ」と日立ビルシステムのエレベーター「アーバンエースHF」(9人乗り)をV2Xシステムでつなぎ、エレベーターを継続運転させる実証実験を実施した。
バッテリー容量が20kWhと小さいサクラで、ビルやマンションの設備の中でも制御の難易度が高いエレベーターの運転が可能であることを実証した。6階建ての試験棟で10時間の往復運転を実施した結果、連続して263回の昇降を達成。満充電の状態で実証実験を開始したところ、10時間の連続往復運転の後のバッテリー残量は46%だった。なお、「リーフe+」(バッテリー容量60kWh)で同じ条件で満充電から往復運転を実施した場合、バッテリー残量は72%だった。
自家発電や定置用蓄電池よりも導入しやすい?
現在のエレベーターには、停電時に内部に人が閉じ込められることがないよう、停電後も最寄り階まで移動して人が降りられるようにするための予備バッテリーが備えられている。ただ、その後は停電が解消されるまでエレベーターが利用できなくなるため、高齢者や体力に不安のある人、身体が不自由な人が別の階に移動したり、外に避難したりすることが難しい。2021年10月に発生した千葉県北西部地震では、日立ビルシステムが保全契約を結んでいるエレベーターが東京都と神奈川県内で2万2400台停止し、復旧まで20時間を要した。
こうした場合に備えて、非常用電源となる自家発電装置や定置用蓄電池をビルやマンションに設置することが手段として考えられるが、導入コストの高さが課題となっている。日立ビルシステムは、EVの普及によってEVの駆動用バッテリーが非常用電源として活用できる可能性が高まると見込み、ビルやマンション向けV2Xシステムの普及に取り組む。
停電時のエレベーター運転に向けたV2Xシステムは2023年中の製品化を見込んでおり、マンションや高齢者向け住宅、介護施設などをターゲットとしている。まずは新築の建物にエレベーターが新規に導入される際に、充放電設備と合わせてV2Xシステムの導入を提案していく。設置済みのエレベーターについては、V2Xシステムに適応可能な機種かどうか検証を進める。
また、非常時に誰のEVを使用するのかといったルール作りや、給水ポンプや照明などエレベーター以外の共用部の設備への電力供給の在り方の検討が導入に向けた課題となる。今回の実証は1〜6階の低層エレベーターのため、今後、高層階向けや定員の大きいエレベーターをV2Xシステムで稼働させた際のデータ収集も進めていく。
「最初はエレベーターを動かせなかった」
V2Xシステムは、EVに接続し、太陽光発電のパワーコンディショナーなどにも対応する充放電設備と、エレベーターの作動や車両の状態に合わせた電力供給などを制御する「エレベーター連携用入出力盤」で構成されている。現時点では、EV1台に対し1セットのV2Xシステムが必要になる。停電時にV2Xシステムを通じて放電する操作は、日立ビルシステムの担当者がいなくても行えるようにする。
充放電設備を通じて、停電時に駆動用バッテリーの電力をAC三相10kVAで建物に供給する。車両と通信できるCHAdeMO規格に対応した充放電設備を使用することで、EVのバッテリー残量が10〜14%程度になるまで監視しながら使うことが可能だ。充放電設備のメーカーは問わないが、200Vへの変換に対応していることが必要だ。また、実証実験で使用した充放電設備は外部購入品だが、停電中のエレベーター制御向けに日立ビルシステムでプログラムを改造している。
クルマから取り出せる電力の上限が10kVAだが、本来は人が乗るエレベーターを10kVAで稼働することはできない。通常の分速60mから分速30mまで速度を落として運転する。また、エレベーターは動き始めの消費電力が最も大きいため、急に動き出さないようにするなど動き始めの制御に細かく工夫することで駆動用バッテリーの電力でエレベーターを動かせるようにしたという。「実証を始めた当初はエレベーターを動かすことができなかった。動かせるようにするまでさまざまな検討を重ねており、2年ほどかけている」(日立ビルシステムの担当者)。
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