燃料電池車は2030年から拡販フェーズ、水素エンジンは直噴がベター?:脱炭素(2/2 ページ)
水素に対する自動車メーカーの関心が高まっている。過去に先行したのは乗用車のFCVだったが、現在関心を寄せられているのは商用車だ。
水素エンジンも商用車が本命か
ボッシュにとってEVやFCVが将来のパワートレインの本命ではあるが、早急に普及するとは考えにくい地域やセグメントがあるという。そのため、ボッシュは多様なパワートレインニーズに対応するため複数の方式をバランスよく開発しており、その1つに水素エンジンもある。
水素エンジンも、燃料電池同様に大型トラック向けで関心が高まっている。効率という観点では、トラックが大型になるほど燃料電池よりも水素エンジンが有利になる。水素をどこで補給するかは課題だが、運送事業者が拠点内に自社で水素ステーションを持つことができれば水素を活用しやすくなる。
水素を燃料とするエンジンシステムのうち、ターボチャージャーやインタークーラー、スロットル、シリンダー、スパークプラグ、排気処理といった部分はガソリンエンジンやディーゼルエンジンの既存のコンポーネントをそのまま流用するか、小改良で水素エンジンに使えると見込む。インジェクターから噴射される水素は、高圧タンクから専用の配管を用いて供給するが、タンクはFCV向けのものをベースにできる。
新規に開発が求められるのは噴射系だ。水素を使ってガソリンやディーゼルと同じエネルギーを得るには、1000倍以上の体積が必要になるため、大きな体積になる水素を限られた時間内に噴射しきることが1つの課題になる。また、ガソリンやディーゼルは燃料自体が摺動部の潤滑油となっているが、水素は気体なので潤滑しない。摺動部が傷まないようにどう対策するかが課題になるが、ボッシュが強みを発揮できる領域でもあるという。さらに、異常燃焼を抑制する上では点火系も水素エンジンに合わせた開発が必要だ。
水素エンジンの性能を計測した結果
ボッシュでは研究用に水素エンジンを試作し、ポート噴射と直接噴射(直噴)の比較を行った。ポート噴射は既存のエンジンからの設計変更が比較的少なくでき、開発期間が短く済むことがメリットになりそうだ。異常燃焼が起こりやすい構造になるが、抑制することは可能だとしている。水素エンジンの使われ方によってはポート噴射は十分現実的な選択肢であり、ボッシュでもポート噴射式の水素エンジン向けのコンポーネント一式を開発している。
一方、直噴はコンプレッサーを使わない低圧式を開発している。コンプレッサーを使う高圧式もあるが、水素タンクはそもそも高圧で、最新のガソリンエンジンの2倍以上の噴射圧があるので、水素タンクの圧力だけで水素が十分な勢いで噴き出す。コンプレッサーを省略でき、コスト面でメリットが大きいため低圧式の直噴システムが有利になりそうだ。
排気量2l(リットル)の4気筒ガソリンエンジンをベースに、ポート噴射式と直噴式を用意して自社のテストベンチで性能を計測した。研究用のエンジンであり、最適化などはしていない段階ではあるが、最大出力は排気量1l当たり60kWまで届いた。ベースのエンジンが120kW/lなのに対し、半分くらいまでの出力はエンジンを組んだだけで達成でき、今後も伸びしろがあるとみている。また、通常のガソリンエンジンの3倍の空気で水素を希釈しても十分安定して燃焼できることが分かったとしている。ただ、数ppmから10ppm程度のHC(炭化水素)とCO(一酸化炭素)が検出された。NOxも排気処理での対応が必要だ。
直噴はポート噴射と比べて異常燃焼のリスクが下がり、トルクと出力を確保しやすいという結果になった。最大出力はポート噴射を上回って排気量1l当たり80kWまで達成。また、ポート噴射と同様に水素がかなり希薄な状態でも安定して燃焼できたという。水素エンジン向けの部品を提供するだけでなく、使い方の知見も併せて提供できるよう、今後も試験を重ねていく。
そもそも水素を燃やすとは?
水素は常温で気体のため、エネルギー密度がガソリンやディーゼルの7000分の1から8000分の1になる。燃料タンクがガソリンやディーゼルと同等の場合、蓄えられる化学エネルギーがかなり減ってしまい、走行できる距離が少なくなる懸念がある。水素を使って現行の燃料と同じエネルギーを得るには1000倍以上の体積が必要だという。インジェクターとして水素を見ると、水素エンジンはガソリンやディーゼルより大きな体積の燃料を噴射する必要がある。一方、燃焼させるときの空気と燃料の質量の比率や発熱量、化学エネルギー密度は、水素とガソリン、ディーゼルの違いは少ない。
水素の自着火温度はガソリンよりも高い。圧縮着火式の燃焼がどれだけ行いやすいかというと、ディーゼルエンジンのような燃焼を水素単体で行うのは難しい。水素は最小点火エネルギーがとても低く、火花点火式は容易である。ガソリンエンジンのような火花点火式の燃焼が行いやすいが、意図せぬ燃焼や異常燃焼を起こすリスクはある。
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