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筑波大発スタートアップQoloの挑戦にみる、今つくばに足りないものスタートアップシティーつくばの可能性(2)(3/3 ページ)

筑波研究学園都市としての歴史を背景に持つ茨城県つくば市のスタートアップシティーとしての可能性を探る本連載。第2回は、筑波大発スタートアップであるQoloへのインタビューを通して、行政によるスタートアップ支援の取り組みの成果と課題を検討する。

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オフィス、人材、パートナー企業

 茨城県やつくば市のスタートアップ支援策が充実しているのは間違いないが、解決していくべき課題は幾つもある。例えば、起業する際に必要な法人登記をする法務局がつくば市にはなく(法務局の出張所はあるものの、登記業務は水戸市にある水戸地方法務局の管轄となる)、税務署もない(隣町の土浦市にある土浦税務署の管轄となる)。

 つくば市がスタートアップシティーとして成功するための重要な課題として、オフィススペースの不足が挙げられる。アクセスのよい地域に十分なオフィスビルがない状況が続いており、賃料もそれほど安価とはいえない金額だ。

 江口氏も「現在は筑波大学内にオフィスを構えていますが、いつまでも居られるわけではありません。大学の近くで移転先を見つけるのが理想ですが、各種条件を考慮した上で株主などに合理的な説明ができなければ、都心に出る可能性もあります」と語る。

 つくばエクスプレス沿線は、近年人口が増加しており、つくばから都心へと通勤する人も増えている。それでも、人材獲得の視点では、都心にオフィスのある企業の方がまだまだ有利だろう。つくば市の人口は約25万人で、決して大都市というわけではない。そして当然のことだが、スタートアップ企業が求める人材は研究者だけではない。

 江口氏は「Qoloの事業は今は開発フェーズですが、販路を拡大していく段階になれば、多様なバックグラウンドを持つ人たちの参画が必要になります。研究者チームに不足する機能を補ってくれる方を、つくばまで引っ張ってこなければなりません」と説明する。営業やマーケティング、バックオフィスなどの職能をもった人たちが多くいるのは、やはり東京都心ということになる。「TSUKUBA CONNECT」などを通じてこうした人材を東京からつくばへ引き込む動きはあるものの、Qoloのように事業拡大フェーズへ移行する企業が増加していくと、まだまだ人材が足りているとはいえず、この点もつくば市にとっては大きな課題といえるだろう。

 日本国内には「企業城下町」と呼ばれる都市が多数ある。例えば、茨城県日立市や愛知県豊田市などには、それぞれ日立製作所やトヨタ自動車とその系列企業だけではなく、関連する中小企業も多く存在している。つくば周辺にも研究機関との取引を多く行っている中小企業もあり、このような中小企業とスタートアップの交流など、今後の発展に期待したいところだ。ディープテックスタートアップにとっては、試作品の部品製造などを柔軟に対応してくれるパートナー企業は大切な存在となる。こうした観点での施策も、行政の課題になってくるだろう。

つくばがスタートアップシティーになるためには

 前回の記事でも示した通り、つくば市は「スタートアップの聖地」となる可能性を秘めている。今回紹介したQoloのように、大学などでの研究成果を基に市内で起業するスタートアップは今後も増えていくはずだ。

 一方で、オフィススペースの不足といった課題も残っている。環境と家賃のバランスのいいオフィス供給のためには行政の支援は欠かせない。つくば駅周辺の旧公務員宿舎エリアなどの再開発は進んでおり、今後もさらに積極的な支援策に期待したい。

 江口氏も指摘するように、スタートアップシティーとして成熟するためには、ベンチャースピリットをもった研究者人材が集まっているだけでは不十分だ。経営、財務、営業、マーケティング、広報、法務、経理など、企業経営にはさまざまな人材が必要だし、資材や部品を調達するパートナー企業の存在も不可欠だ。「スタートアップ・エコシステム」の構築には、これらの要素を包括する広い視点が求められる。

筆者プロフィール

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堀下 恭平(ほりした きょうへい) Venture Cafe Tokyo TSUKUBA CONNECT manager

あらゆる挑戦を応援する場である「Tsukuba Place Lab」「up Tsukuba」「つくばスタートアップパーク」などのコワーキング/インキュベーション施設を運営するしびっくぱわー 代表取締役やつくばベンチャー協会理事兼事務局長などを務める。


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