筑波大発スタートアップQoloの挑戦にみる、今つくばに足りないもの:スタートアップシティーつくばの可能性(2)(2/3 ページ)
筑波研究学園都市としての歴史を背景に持つ茨城県つくば市のスタートアップシティーとしての可能性を探る本連載。第2回は、筑波大発スタートアップであるQoloへのインタビューを通して、行政によるスタートアップ支援の取り組みの成果と課題を検討する。
筑波大学発ベンチャーに認定、市内の研究機関をフル活用
筑波大学発ベンチャーに認定され、また、産学連携課の支援プログラムに採択されたQoloのオフィスは、筑波大学内の産学リエゾン共同研究センターの一室にある。研究員のときから利用してきた大学設備の一部は引き続き使用している。「大学と共同研究させていただいたりと、バックアップ体制は充実しています」と江口氏は話す。
つくば市内には多数の研究機関が存在している。国などの研究所は29あり、民間の研究施設などを含めれば150近くになるという。その中の1つに、日本自動車研究所(JARI)がある。JARIでは自動車や道路交通に関する研究や試験を行っており、Qoloの開発する車いすの性能試験はこの研究所に委託している。
「車体をだんだん傾けていって倒れる条件をテストしたり、大きな負荷をかけ続ける耐久試験だったりと、いろいろな試験を依頼しています。大学の研究室時代からお世話になっていますが、JARIが近くにあるというのはアドバンテージですね。何日もかかる試験に立ち会う必要がありますから、遠方の機関に行くとなれば交通費や宿泊費もかさんでしまいます」(江口氏)。
「つくばチャレンジ」でつくばに出会い、筑波大学に進学し、市内の研究機関を活用しながら研究した成果を基に、大学発スタートアップの枠組みを活用して起業したQolo。まさに「地域発スタートアップ」の象徴的存在だと感じるのは、筆者だけではないだろう。このようなスタートアップはQoloだけに限らない。筆者も運営に携わっている「TSUKUBA CONNECT」では、毎月さまざまなスタートアップが交流の場を持っており、そこに集まる多くは筑波大学や市内の研究機関での研究シーズを基に起業したスタートアップだ。
つくばで多くのスタートアップが生まれている背景には、茨城県やつくば市のサポートなどももちろんあるが、筑波大学出身者や研究者たちがつくば市に抱いている愛情、愛着も大きな要素だと筆者は考えている。
スタートアップ支援に長年携わってきた筆者から見ても、つくばのスタートアップは街への愛が強いと感じる。彼ら彼女らがつくば市内で起業すること自体は、各種サポート体制を活用したことの結果かもしれない。しかし、ビジネスが軌道に乗り拡大していく段階になっても、引き続き市内で事業を継続していこうという声は明らかに多い。
このことは、自治体にとって大きな財産だろう。住民税や法人税といった直接的な意味だけでなく、地域を取り巻くエコシステムの一員としての役割も果たしてくれるのだ。住む場所への「郷土愛」のような好意的感情は、時間を掛けて形成されるものだ。自治体にとってはスタートアップ支援だけでなく、総合的な意味で「街の魅力」を高めていくことが大切になっていくだろう。
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