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筑波大発スタートアップQoloの挑戦にみる、今つくばに足りないものスタートアップシティーつくばの可能性(2)(1/3 ページ)

筑波研究学園都市としての歴史を背景に持つ茨城県つくば市のスタートアップシティーとしての可能性を探る本連載。第2回は、筑波大発スタートアップであるQoloへのインタビューを通して、行政によるスタートアップ支援の取り組みの成果と課題を検討する。

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 筑波研究学園都市としての歴史を背景に持つ茨城県つくば市のディープテックスタートアップシティーとしての可能性を探る本連載。第2回は、2021年4月に創業したスタートアップ企業へのインタビューを通して、行政によるスタートアップ支援の取り組みの成果と課題を検討する。

⇒連載「スタートアップシティーつくばの可能性」バックナンバー

つくばで特筆すべきは「ディープテックスタートアップ」

 日本各地で地方自治体がスタートアップ企業の支援に取り組んでいる。本連載第1回では、スタートアップシティーとしての茨城県つくば市の取り組みを、茨城県の担当者インタビューを通して紹介した。今回の連載第2回では、つくばで起業し世界に羽ばたこうとしている若いスタートアップ企業を紹介したい。

 つくば市は東京からのアクセスもよく数多くの研究機関が集まっている。筑波大学や産業技術総合研究所(AIST)、物質・材料研究機構(NIMS)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめ、大小さまざまな研究機関が存在し、2万人を超える研究者たちが働く、まさに研究学園都市だ。地理的特性と、豊富な人材や研究環境の充実という要素は、スタートアップ育成における大きなメリットになっている。

 つくば市のスタートアップ企業の中でも特筆すべきは、ディープテック領域で顕著な成果をあげていることだ。ここで言う「ディープテックスタートアップ」とは、科学的な研究成果を基に、社会に大きなインパクトを与える事業を立ち上げるスタートアップを指す。研究成果が前提になるものの、そこから実用化に向けた開発には莫大(ばくだい)なコストと時間が必要だが、一度その事業が軌道に乗れば大きなリターンを得られることが期待できる。

大学での研究シーズを基に起業した「Qolo」

 今回紹介する「Qolo(読み:コロ)株式会社」(以下、Qolo)は、2021年4月に創業したばかりの筑波大学発スタートアップだ。下肢に障害のある人が利用する「立って乗る車いす」を開発している。足が不自由であっても、座ったままの状態で居続けることにはデメリットが多い。Qoloでは「立ち上がる」ことの重要性に注目し、起立訓練や移動支援のための機器の提供を目指している。

QoloのWebサイト
QoloのWebサイト[クリックでWebサイトへ移動]
Qoloが開発を進める車いすのリハビリテーションモデル(左)とモビリティモデル(右)
Qoloが開発を進める車いすのリハビリテーションモデル(左)とモビリティモデル(右)[クリックで拡大]

 同社の代表取締役である江口洋丞氏の経歴を知れば、Qoloはつくばのスタートアップを象徴しているように感じられるかもしれない。江口氏は、東京工業高等専門学校を卒業後、2011年に筑波大学に3年次編入した。大学院修士課程の修了後は自動車メーカーに就職するが、3年後に社会人博士として筑波大学へ戻ることを選ぶ。大学院で博士号を取得し、同大学の研究員となった江口氏は、任期を終えた2021年春にQoloを創業する。

Qolo 代表取締役の江口洋丞氏(右)とインタビュアーを務めたVenture Cafe Tokyo TSUKUBA CONNECT managerの堀下恭平氏(左)
Qolo 代表取締役の江口洋丞氏(右)とインタビュアーを務めたVenture Cafe Tokyo TSUKUBA CONNECT managerの堀下恭平氏(左)[クリックで拡大]

 江口氏がつくば市と出会ったのは、「つくばチャレンジ」というイベントがきっかけだった。つくばチャレンジとは、つくば市内の遊歩道などで移動ロボットが自律走行する実証実験のイベントだ。一般市民たちが歩いている公道を使って走行実験を行うもので、実験室や試験場の中だけでは得られない知見獲得を目指している。つくば市などの主催により2007年から毎年開催されている。

2007年当時の「つくばチャレンジ」の様子2007年当時の「つくばチャレンジ」の様子 2007年当時の「つくばチャレンジ」の様子[クリックで拡大]

「高専のときは自動走行ロボットを研究していました。そのロボットを持ってイベントに参加したのが、つくばとの最初の出会いでした。筑波大学のチームはやっぱり優秀で、進学先を決める要素の一つになりました」(江口氏)

 大学4年時に配属された研究室で、教授の鈴木健嗣氏から「移動するモビリティの研究は先行例が多いから、その手前の立ち上がるところから研究してみないか」と提案された。また、江口氏が当時住んでいた学生宿舎には車いすを利用している学生も多く、登下校時などで会う機会も多かったそうだ。江口氏は「車いすに乗ると、人の目線は低くなります。車いすでも立ち上がって移動できれば、歩いている恋人と手をつないで散歩できるかもしれない。それはすてきだな、なんてことも考えました」と語る。

 卒業研究から大学院にかけて、Qoloの原型となる車いすの研究を続けた江口氏。修士課程を修了して一般企業に就職したおよそ3年後、働きながら改稿を続けていた論文がついに学術雑誌に受理される。これによって、社会人向けの「博士課程早期修了プログラム」の入試要件を満たし、2018年に筑波大学での研究を再開する。そして博士号を取得し、会社を退職して同大学の研究員となったのが2019年春のことだ。

「トヨタ・モビリティ基金のコンテストで最終候補まで残り、開発資金を獲得することができました。しかし、残念ながら1位にはなれず支援は打ち切り。もう少し続ければ成功する可能性があると感じていましたが、研究員の任期も迫っていました。ここでストップしてしまったら積み上げてきたものも終わってしまいます。それは悔しいという気持ちが強く、思い切ってQoloを創業することにしました」(江口氏)

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