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スタートアップとのオープンイノベーションで生じる“搾取的関係”の問題点スタートアップとオープンイノベーション〜契約成功の秘訣〜(1)(1/2 ページ)

本連載では大手企業とスタートアップのオープンイノベーションを数多く支援してきた弁護士が、スタートアップとのオープンイノベーションにおける取り組み方のポイントを紹介する。第1回は現在スタートアップと大企業間のオープンイノベーションで生じ得る「搾取的関係」の問題点を解説する。

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 弁護士の山本飛翔(ヤマモトツバサ)と申します。「弁護士が解説!知財戦略のイロハ」に引き続き、モノづくり企業の皆さまが、スタートアップとのオープンイノベーションを活用して事業を成長させていただくに当たってお役立ていただけるような記事をこれからご紹介していこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 筆者の詳細な経歴は本連載の末尾をご参照いただければと存じますが、ここでは本連載のテーマと関連するものをご紹介します。私は、大手企業とスタートアップの両方をサポートしてきた経験を生かし、特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」に事務局として関与しており、2021年秋頃にはオープンイノベーションにまつわる法務/知財に関する書籍を出版予定です。

 本連載では筆者が日々の実務や、数多くのオープンイノベーションのサポートを通じて得た経験から「事業成長を目指す上で、スタートアップとのオープンイノベーションにいかに取り組むべきか」という点を皆さまにご紹介していきます。特に、前回の連載時におけるスタートアップとのアライアンスの記事執筆時には触れなかった、「スタートアップとの事業連携に関する指針」をご説明し、同指針のポイントを踏まえつつ、いかに契約交渉をしていくべきかという点を解説していきます。

 連載第1回である今回は、まず皆さまにスタートアップとのオープンイノベーションの具体的な問題点をいくつかご紹介します。残念ながら、オープンイノベーションは両者間が全く対等な立場で関係し合うことが困難な場合もあります。事業規模が異なる企業間のオープンイノベーションでは“搾取的な関係”が生まれる可能性があるのです。こうした問題について、公正取引委員会などの関係省庁が実態調査に乗り出すなど、現在社会的な関心が寄せられています。

※1:なお、本記事における意見は、筆者の個人的な意見であり、所属団体や関与するプロジェクトなどの意見を代表するものではないことを念のため付言する。

なぜ今オープンイノベーションが注目されるのか

 「オープンイノベーション」という言葉の生みの親と言われるヘンリー・チェスブロー(Henry Chesbrough)氏によれば、オープンイノベーションとは自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデル、研究成果、製品開発、サービス開発、組織改革、行政改革、地域活性化、社会課題解決などにつなげるイノベーションのことを指します※2

※2:オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会『オープンイノベーション白書(第3版)』(2020年)。

 近年、世の中を見渡すと(特にスタートアップとの)オープンイノベーションへの関心は高まってきている※3ようです。しかし、そもそもなぜオープンイノベーションが今、必要とされているのでしょうか。

※3:例えば、特許庁・経済産業省から、「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」が公開された他、事業会社からスタートアップに対する投資の減税措置であるオープンイノベーション促進税制が設けられるなど、オープンイノベーションから目を背けられない状況となっている。

 その理由は多岐にわたりますが、例えば、事業会社※4によるクローズドイノベーションの限界が挙げられるでしょう。従来、多くの企業では自社の技術だけで開発を進める自前主義が一般的でした。しかし、技術革新のスピードが加速している現在、企業には既存の業種を横断するような商品やサービスの開発が求められています。こうした状況下で自前主義のみの開発を推し進めるのには、限界があります。

※4:本稿では「事業会社」をスタートアップと対比させて、大企業をはじめスタートアップには該当しない一般企業を指す用語として用いる。

 そもそも、事業会社は新規事業の開発を強く求める一方で、自社の既存有力事業を破壊し得る、カニバリズムの恐れがある事業には容易に取り組めないというジレンマを抱えています(イノベーションのジレンマ)。このような中で、事業会社が自社の既存事業を維持成長させつつ、将来のさらなる成長に向けた「次の一手」を打つためには、新規事業に挑戦するスタートアップと連携するオープンイノベーションが効果的な手法の1つであることは疑いないでしょう。

 なお前回連載でも触れましたが、スタートアップとのオープンイノベーションといっても、アクセラレーションプログラムの提供、業務提携や共同研究開発といった出資を伴わない比較的ライトなもの、出資を伴うもの(事業会社本体またはCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)からの出資)、M&Aなどさまざまな形態があり得ます。以下はその一例です。

緩やかな関与

ビジネスコンテスト

アイディアソン・ハッカソン

インキュベーション/アクセラレーションプログラム

単純な売買取引

中程度の関与

共同研究開発

研究開発受委託

技術/業務提携

高度の関与

出資(含むCVC、資本提携)

M&A

目指すべきは「対等なパートナーとしてのアライアンス」

 ただ、ここで注意しなければならないのは、オープンイノベーションでは元請けと下請けのような関係ではなく、対等なパートナーとしてのアライアンスを締結することを目指すべきだということです。言い換えれば、一方が他方を搾取するような座組は作らないことが求められます。ただ残念ながら、現実には「搾取」とまではいかなくとも、事業会社から承諾できない、不利益を一方的に被りかねない契約の締結を求められたスタートアップも少ないようです。


目指すべきは「対等なパートナー関係」だが……

 実情を示す統計データとして、公正取引委員会が発行する「(令和2年11月27日)スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告)」を参照してみましょう。スタートアップを対象に実施したアンケート調査では「連携事業者又は出資者から納得できない行為を受けたことがあるスタートアップ」は回答社全体の17%に及びます。この内、「少なくとも一部は納得できない行為を受け入れたスタートアップ」は約79%、その中で「納得できない行為を受け入れたことにより不利益が生じたスタートアップ」も約56%にも達しています。

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