少ない学習データで早期胃がんを範囲診断するAIを構築:医療技術ニュース
理化学研究所は、早期胃がんの範囲診断に向け、画像の1画素単位で病変の存在確率を予測できるAIを構築した。消化器内視鏡専門医の診断精度と、ほぼ同等の結果が得られている。
理化学研究所は2023年6月6日、早期胃がんの範囲診断に向け、画像の1画素単位で病変の存在確率を予測できるAI(人工知能)を構築したと発表した。
今回構築したAIでは、小規模データを効率的に学習する機能により、がん画像150枚とがんを含まない正常画像150枚の計300枚をベースにした学習を実施している。国立がん研究センター東病院で収集した約1年分の連続症例を用いて、データ拡張などにより約113万枚に増やした上で、早期胃がんの画像特徴を畳み込みニューラルネットワーク(CNN)で学習できるようにした。
学習済みのCNNは、新たな入力画像に対して、1画素単位で病変の存在確率を予測する。予測精度を向上させるため、範囲診断したい内視鏡画像を約1600個のブロックに分割し、ブロックごとにCNNで病変の存在確率を予測。それぞれの予測結果を重ね合わせることで、1画素ごとの存在確率を求められる。
学習用データと異なる連続症例で構築したAIを検証したところ、137症例中130症例(94.9%)で病変の有無を正しく判定できた。専門医6人とAIによる病変の範囲診断を比較したところ、AIは専門医よりも感度に優れ、予測領域の一致度を評価する指標mIoUはほぼ同等となった。
早期胃がん領域の予測で、AIが専門医の範囲診断に迫る性能を示したのは、同研究が初になるという。学習用データが少量で済むため、他施設や他装置の画像にも容易にAIを適用できる。また、学習用データの収集が困難な希少がんなどにも適用できる可能性があるとしている。
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