CFRPに環境発電能力を付与、電源なしでLED電球の点灯と無線通信が可能に:研究開発の最前線
東北大学 大学院環境科学研究科 教授の成田史生氏(工学部材料科学総合学科兼担)のグループは、英国リーズ大学 教授のYu Shi教授と共同で、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の電極からなる新しい圧電振動発電デバイスの開発に成功した。
東北大学は2023年6月15日、同大学 大学院環境科学研究科 教授の成田史生氏(工学部材料科学総合学科兼担)のグループが、英国リーズ大学 教授のYu Shi教授と共同で、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の電極を備えた新しい圧電振動発電デバイス「炭素繊維強化圧電振動エネルギーハーベスタ(C-PVEH)」の開発に成功したと発表した。搭載しているCFRP電極は優れた導電性を有し、圧電材料である圧電ナノ粒子をプラスチックに分散した圧電ナノコンポジットの機械的特性を劇的に向上させ、共振時の出力電力を安定的に確保できる。
C-PVEHは、平均粒径が約200nmの圧電ナノ粒子(ニオブ酸カリウムナトリウム、KNN)をプラスチック(エポキシ樹脂)に分散した圧電ナノコンポジットにCFRPを積層したものとなっており、CFRPを補強材および電極として機能させている。これにより、圧電性能を損なわず優れた機械的特性が得られ、環境発電デバイスの性能と耐久性を向上した。
加えて、片持ちはりとして端部を固定し逆側の端部に0.05mmの変位振幅を与えた場合に約90μW/cm3と高い出力電力密度で発電し、LED電球を容易に点灯させられる他、センサー情報を電源フリーでワイヤレス送信することにも成功している。また、この技術はワイヤレス通信システムの電源として大きな応用可能性を示し、IoT(モノのインターネット)センサー分野だけでなく、スポーツ/レジャーや航空/宇宙の分野で、CFRPの新しい展開が期待される。
CFRPのIoT化には、さまざまなCFRP製品の共振周波数を把握し、それに合わせたデバイス設計が必要となることを踏まえて、今後は、数値シミュレーションを併用し、多様な応用に対して振動発電デバイスの最適設計を行って、試作、振動/衝撃発電実験、信頼性/耐久性評価を行っていく方針だ。
同技術の研究の背景
CFRPは、超軽量で高い電気伝導性と優れた機械的安定性を備えており、スポーツ/レジャー製品(テニスラケット、釣り竿など)、航空/宇宙システム、自動車、船舶などさまざまな分野で応用されている。一方、身の回りにあるわずかな振動や電波を電気に変える環境発電は、電源フリー/電池交換不要のIoTセンサーを開発するための技術として注目されている。CFRPにひずみを電気に変える圧電性をもたせることで、CFRP製品のマルチファンクショナル化が実現し、振動や衝撃を受けるスポーツ/レジャー製品や航空/宇宙システム、自動車、船舶などの移動体に発電機能を付与することが可能となる。
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