環境とくらしの2本柱でR&Dを、パナソニックHDのCTOが語る新技術開発の現状:製造マネジメント インタビュー(3/3 ページ)
パナソニック ホールディングスは2023年5月26日、同社 執行役員 グループCTOである小川立夫氏への合同取材に応じた。同氏による技術戦略の説明や、報道陣との質疑応答の内容を抜粋して紹介する。
次世代太陽電池のポイントは「建材として使えるか」
――草津事業所(滋賀県草津市)で、再生可能エネルギーによって工場の消費電力をまかなう実証施設「H2 KIBOU FIELD」を稼働中だが、ここで活用している純水素型燃料電池の商用化時期はいつになるのか。
小川氏 実証施設で展開中の、純水素型燃料電池と太陽光発電システム、蓄電池を組み合わせたソリューション自体は、要望があればすぐに顧客に提供できる状況だ。すでに外部企業から引き合いが来ており、既に外販という段階に入りつつある。
――ペロブスカイト太陽電池のR&Dは進んでいるようだが、実用化時期のめどは。
小川氏 目標としている2030年頃の時期を待たず、数年以内に世の中に出せるようにしたい。課題は大面積化した場合に、一定の変換効率を全面で維持できるかという点だ。2020年1月に30cm角で世界最高の変換効率を達成したことを発表した。研究室レベルではこのように小面積で高い変換効率を誇る電池を作る取り組みは進んでいるが、大面積で同様の電池を開発するのは、製造面などで難しさがある。いち早く1m角の製品を製造すべく、設備の搬入などを進めている。
――ペロブスカイト太陽電池の市場立ち上がりはこれからだが、競合他社と比較した際に勝ち筋はどこにあると考えているか。
小川氏 用途をどこに設定するが大きな要素になる。本当の勝負は建築材料としての使いやすさにかかっていると思う。当社は従来のシリコン型太陽電池が設置しづらいビルなどへの適用を目指している。それに当たっては、ペロブスカイト太陽電池の特性をいかに向上させるかよりも、しっかりと雨や汚れを防ぐ封止ができているかが問題になる。配線構造や施工性、メンテナンスのしやすさなどが重要だ。
また、当社には過去の有機EL開発で培ってきた、数m角の上に均一な膜を塗布できる高精細/高速のインクジェット技術がある。ここを差別化の軸としたい。
生成AIがPXを加速する
――国内製造業の中では早い段階からChatGPTをグループ全社で展開した。どのような効果を期待するか。
小川氏 AIをツールとしてどう使いこなしていくか。これはAI開発のみならず業務そのものの改革でも非常に重要だ。当社内だけでなく、顧客の業務プロセス革新においても意義がある。当社グループではパナソニック コネクトの導入に続き、グループ全社で社員が使えるようにした。
ただ機密情報漏えいのリスクがあるので、現段階ではどのデータベースにアクセスしてもよいというわけにはいかない。現状は社内に閉じた形で運用して、人材のAIリテラシーを向上させつつ、社内データベースの充実化を図っている。社内での取り組みを地道に進めていくことで、生成AIの使い方がこなれていくだろう。世の中でさまざまな規制が整備されていくと思うが、その中でさまざまな取り組みができるようにする。今はその仕込み期間だ。
――生成AIを「次の商売につなげたい」とのことだが、社外での展開イメージがあるのか。
小川氏 生成AIに具体的に何をやらせるかは試行錯誤して検討している段階だ。ただ、デジタル化された顧客接点からデータを取得して、ソリューションに生かすといったところで、こうしたAIは役立つのではないか。
具体的に想定される適応先の事業例を挙げることは難しいが、ウェルビーイング領域では、人々の暮らしの健康/安全/快適に資する領域で何か新しいものを提示できればと思う。
――生成AIによって「PX(パナソニックトランスフォーメーション)」はどのように変わると考えているか。
小川氏 基本的な考え方は変わらないが、変革を加速する有望なツールだとは感じる。ただし、ツールにはポジティブな面もあればネガティブな面がある。セキュリティや安全性に関してどこまで担保されるのかは見極めていかなければならない。
――技術部門の立場から、長期的に見てサステナビリティとウェルビーイング以外の領域で取り組みを展開する予定はあるのか。
小川氏 まず、サステナビリティについていえば、そもそも地球環境に関係ない事業は存在しない。多くの事業はサステナビリティとウェルビーイングのどちらかの領域に含まれるだろう。基本的にはこれら2本柱がR&Dのテーマになる。もちろん、事業会社が手掛けられないような、萌芽的な技術にどのくらい技術部門が対応していくかは考えていかなければならない。今の事業会社が対応できていない新しい領域を開いていくのは技術部門の責務だ。
既存の事業でも、地球環境価値への貢献を熱心に考えていなかった領域はある。そうした事業の方針を変えていき、ポートフォリオ全体を2本柱を中心に整えていくことになるだろう。
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