環境とくらしの2本柱でR&Dを、パナソニックHDのCTOが語る新技術開発の現状:製造マネジメント インタビュー(2/3 ページ)
パナソニック ホールディングスは2023年5月26日、同社 執行役員 グループCTOである小川立夫氏への合同取材に応じた。同氏による技術戦略の説明や、報道陣との質疑応答の内容を抜粋して紹介する。
車載電池はシェア拡大だけを追わない
以下では、報道陣と小川氏の質疑応答を抜粋して紹介する。
――全固体電池について、パナソニック ホールディングスで開発する意義をどのように捉えているか。また市場投入はいつ頃になるのか。
小川立夫氏(以下、小川氏) 技術部門でも一定のリソースを投下して進めているが、具体的な投入時期については現段階で言うことはできない。R&Dの一番の目的は、トヨタ自動車との協業を念頭に置いたEV(電気自動車)向けの用途だが、全固体電池の特性を鑑みれば、素早く安全で高出力なエネルギー供給が求められる他の機器にも展開できると考えている。追って、全固体電池を生かした製品を紹介するタイミングがあるので期待していただきたい。
――リチウムイオン電池は正極材料にニッケル、コバルト、マンガンを使用する三元系の製造を今後も続けるのか。
小川氏 資源枯渇の問題があるので、コバルトの使用量を早急に減らしていき、その後はニッケルの割合も低減していく。これは価格面での問題もあるが、よりサプライチェーン全体で入手難に陥りにくい素材の採用にシフトしていきたい。
――中国などを中心にR&Dが活発化しているナトリウムイオン電池についてはどう考えているか。
小川氏 ナトリウムイオン電池は最初、安全度は高いが車載用途では容量密度が低すぎるといわれていた。ただ、個人的な見解になるが、中国市場の立ち上がりを見ていると、近隣を走行するなど用途次第では使えると思う。
ナトリウムイオン電池はコスト面でのポテンシャルは確かにあるが、容量を考えるとリチウムイオン電池並みというのは難しく、用途は限定される。リチウムイオン電池のR&Dはナトリウムイオン電池の開発でも生かせる。ナトリウムイオン電池に取り組まなければならないとなったら、(開発は)技術的にはできるだろう。
――パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は車載電池について、「シェアを必ずしも大きく取る必要はない」と言っていた。確かに、車載電池は顧客要求に合わせて細かく作り上げていく製品ではある。しかし、やはり一定のシェアを獲得しなければ価格競争につながらないのではないか。
小川氏 個人的な解釈だが、楠見が「シェア」といったのはB2C製品を意識してのことだと思う。例えば当社が手掛けていた薄型テレビのコスト力は、市場シェアによって左右されていた。車載電池も調達/製造コストを低減するには、一定規模の生産量がないと競争できないのは事実だ。品質が良ければ高価格でも必ず選んでもらえるということでもない。
しかし、シェアを第一に考える民生向け製品のような競争ではなく、EVメーカーと電池の作り方からすり合わせて、一定規模の顧客との握りの中で作ることが第一だろうと考えている。車載電池にコスト競争力を持たせるのは前提条件だが、何が何でも数多くのメーカーに販売していくというスタンスではない。
――車載用電池は円筒型のものを製造しているが、角型に比べてメリットがあるという認識か。
小川氏 円筒形と角型のどちらがメリットがあるかという議論は今も続いている。確かに、一定の空間内にどれだけ電池を積載できるかを考えると、円筒型は角型に比べて空間に余りができてしまう。しかし、残りの空間を使って電池パック全体を制御できる。これを考慮すると、当社の車載用電池の現行モデルである「2170」に続いて「4680」も、いいバランスになっているといえるだろう。テスラなども、電池の制御や冷却、安全性などを考慮した上でのエネルギー出力については、円筒型にも利があると考えているようだ。
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