「循環型デジタル・エンジニアリング」に勝負を懸ける三菱電機が進める2つのDX:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
三菱電機は、投資家向けの経営戦略発表会を開催。中期経営計画の進捗度を説明するとともに、新たな成長の軸として打ち出す「循環型デジタル・エンジニアリング」の推進方法について紹介した。
循環型デジタル・エンジニアリングで10年先の成長を
将来の成長戦略としてサステナビリティ経営や人材強化などにも取り組むが、新たな目指すべき姿として戦略の根幹を握るのが「循環型デジタル・エンジニアリング」である。
循環型デジタル・エンジニアリングは、三菱電機が豊富に抱えるコンポーネントから得られたデータをデジタル空間に集約する。それを分析して顧客の潜在ニーズや課題を把握し、それを基にコンポーネントやシステム、ソリューションに活用して顧客に価値を還元する価値創出サイクルだ。
従来は、工場内で現場の情報とICTを結ぶ「e-F@ctory」のように個別の事業領域で行われてきた取り組みだが、三菱電機グループ共有のデータ基盤を構築することで、グループ内のリソースを相互活用しながら、新たな価値創出ができるようにする。
漆間氏は「三菱電機はコンポーネントが強いが、過去はそこで生み出されるデータを重視してこなかった。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進展する中で、データをより重視して価値創出につなげていく必要がある。データを生かした統合ソリューションの強化を進めるとともに、それで得られた知見によりコンポーネントの再強化にもつなげていく」と取り組む意義について語っている。
現在はこの循環型デジタル・エンジニアリングの基盤構築に向けて、さまざまな議論を進めるとともに、必要な体制強化を進めているという。具体的には、デジタル空間の用意、DX人材の育成と獲得、共創の推進、技術開発、プロセス改革などに取り組み。「それぞれ事業本部がありたい姿を描いて、バックキャストで不足しているものを足していく。その中で、各事業本部における循環型デジタル・エンジニアリングの姿を作りステップを決めていく。事業として本格的に成長するのは10年先や15年先を想定している」と漆間氏は語る。
事業DXと業務DXを推進
循環型デジタル・エンジニアリングの基盤整備には、2023年4月に設立された「DXイノベーションセンター」などが関わりながら進めていく。具体的には、各事業の持つデータの統合を中心に進める「事業DX」と、IT基盤として最適な形からシステムの構築を進める「業務DX」の2つの取り組みを推進する。
事業DXは、各事業が展開しているコンポーネントからのさまざまなデータを円滑に収集し、統合することでさまざまなところで使えるようにすることを目指す。さまざまな形式なデータを取り扱うため、それを統合管理するために必要なWebAPI連携基盤や、データを活用するデータ分析基盤の用意などを行う。
業務DXは、業務プロセスやコード、マスターの標準化を推進し、社内に散在する各種データを一元管理する業務プラットフォームを構築する動きだ。ITシステムの在り方として最適な姿を模索し、業務基盤としての理想像を追求する。
事業の末端からのデータ統合を進めるのが事業DXで、上位のシステムから統合することを目指すのが業務DXというイメージだ。将来的には相互に連携しながら、経営層から現場まで共通のデータを基にしたさまざまな判断が行えるデータドリブン経営の実現を目指すという。
三菱電機 常務執行役 ビジネス・プラットフォームBAオーナー の三谷英一郎氏は「一部事業で先行して循環型デジタル・エンジニアリングに近いような動きを実現できているところもある。ただ、こうした仕組みは各事業個別で行ってきたもので、それを全社での基盤を通じて行えるような仕組みに作り替えていく。それが事業DXと業務DXで目指す取り組みとなる」と述べている。
今後は「3年後くらいに体制ややり方をまず確立するようにする。まずは各事業で新たに構築した基盤を通じてそれぞれの循環型デジタル・エンジニアリングビジネスを立ち上げて収益化につなげていく。これらを進めた後で、得られた知見を基に、情報システム・サービス事業として、ソリューションビジネスを展開し、さらなる成長につなげるという順番で考えている」と三谷氏は語っている。
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