ウラン系超電導体の超純良単結晶で新たな超伝導状態を発見:研究開発の最前線
日本原子力研究開発機構は、東北大学とともに、スピン三重項トポロジカル超伝導物質候補であるウラン化合物で、低磁場超伝導状態と高磁場超伝導状態との間に、両者が混合した新しい超伝導状態が存在することを発見した。
日本原子力研究開発機構は2023年5月15日、東北大学とともに、スピン三重項トポロジカル超伝導物質候補であるウラン化合物で、低磁場超伝導状態と高磁場超伝導状態との間に、両者が混合した新しい超伝導状態が存在することを発見したと発表した。
同研究は、日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター強相関アクチノイド科学研究グループ 研究主幹の酒井宏典氏とグループリーダーの徳永陽氏や、東北大学 金属材料研究所 准教授の木俣基氏、教授の淡路智氏、教授の佐々木孝彦氏、教授の青木大氏が行っている。
無冷媒超電導磁石を用いて精密な実験が初めて可能に
ウランテルル化物(UTe2)は、米国の研究グループが2019年に超伝導を報告して以降、国際的に大きな注目を集めている。この物質に、ゼロ磁場から磁場をかけていくと、通常の超伝導体と同様に、低磁場超伝導状態は壊されて超伝導転移温度が下がっていくが、さらに15テスラ以上の磁場をかけると逆に超伝導転移温度が上昇して、高磁場超伝導と呼ばれる状態が安定化する。しかしながら、磁場によって、低磁場超伝導状態がどのように高磁場超伝導状態に移り変わっていくのかは分かっていなかった。
このように磁場に強い超伝導を示すため、UTe2は、新しいタイプのスピン三重項(電子スピンを打ち消し合わずに電子ペアを起こす超伝導体)であるトポロジカル超伝導体の候補として考えられるようになった。このタイプの超伝導体は、次世代量子コンピュータへの応用が期待されている。しかし、磁場によって、低磁場超伝導状態がどのように高磁場超伝導状態に移り変わっていくかは判明していなかった。
そこで、日本原子力研究開発機構と東北大学は、超伝導性能が格段に向上するUTe2の超純良単結晶の新しい育成方法を2022年に開発した。今回の研究では、この超純良単結晶を用い、磁場や温度を変えながら、超伝導の性質を精密に調べた。
その結果、低磁場の超伝導と高磁場の超伝導との間に、両者が混合した新しい超伝導状態が存在することを発見した。単結晶の超伝導転移温度が上昇したことが実験成功の鍵で、東北大学金属材料研究所が開発した世界最高の磁場を発生できる無冷媒超電導磁石を用いて精密な実験が初めて可能となった。
さらに、UTe2がスピン三重項トポロジカル超伝導体であることを裏付けた。低磁場/高磁場/その混合超伝導状態のように、多彩な超伝導状態を制御する方法を発見できれば、次世代量子コンピュータ用の新しい超伝導量子デバイスの開発につながると期待されている。
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