背中をムラなく冷やす、空調機開発の知見を応用した冷却装置搭載バックパック:イノベーションのレシピ(2/2 ページ)
富士通ゼネラルは、冷却装置を搭載したビジネスバックパック「コンディショニングバックパック」の先行予約受付を開始した。
「蓄冷熱交換技術」を活用した冷却装置
今回、バックパックに搭載した冷却装置には「蓄冷熱交換技術」を活用している。
同技術には、3つの特徴がある。1つ目は熱交換技術だ。保冷剤で冷却された水を循環させることで、着用者から繰り返し熱を吸収する構造を実現した。同技術に関する特許は既に取得済みだという。
2つ目は流路形成技術だ。冷却性能を備えた製品の中にはチューブに水を流して冷却するものが多いが、これだと特定範囲を均一に冷やすことが難しい。これに対して、今回は毛細血管に見られるような表面張力の原理を応用した冷却シートによって、冷却範囲が偏らず、全体を均一に冷やせるようにしている。ただし、保冷剤は温度変化によって体積が変わるため、こうした変化に応じていかに効率よく冷却していくかが課題になる。
仲田氏は「いかに熱をロスせずに使えるようにするかが重要なポイントだった。空調機開発などを通じて培った知見を生かして開発を行った」と説明した。
3つ目はゆらぎ制御技術だ。温度を常に低く保つのではなく、一定の温度変化を与える仕組みにしている。急激な温度変化には敏感で、穏やかな変化には鈍感という人間の特性を考慮したもので、快適さを維持するために絶えず熱交換を繰り返す仕組みだ。
バックパックのデザインと機能性のバランスにもこだわった。例えばバックパック背面の生地は、候補となる素材を1枚ずつ検証して、その中で1番熱が伝わりやすいメッシュ生地のものを採用した。さらに、十分な冷却効果を伝えるために、生地の厚みも慎重に調整した。
また、市場には冷却用ファンを取り付けた製品も存在するが、今回の製品はビジネスユースを想定していたためファンを用いたデザインがそぐわない。一方で、ビジネス向けにシンプルな仕上がりを重視しすぎると、十分な冷却効果が生まれにくい。「いかにさりげなく冷やすか」(仲田氏)を重視しつつ、全部で7回試作を繰り返してデザインとバランスの両立を実現したようだ。
ショルダーベルトの分割設計で荷重を分散
ただ、冷却装置を搭載した分、バックパックの重量感が増してしまう。冷却装置単体の重量は1.5kgあり、バックパックと合わせると2.4kgほどになる。
そこで同社は、バックパックのショルダーベルト部分に総合スポーツメーカーのミズノと共同開発した「スプリットストラップ」という技術を採用した。ショルダーベルトを分割設計にすることで、荷重を分散させて軽減するというものだ。肩にフィットしやすい角度設計と連動することで、軽量感も生み出す。さらに、腰でバックパックの重量を支えられるように「ダイナモーションフィット」という技術も活用している。
仲田氏は、今後の展望として「バックパックだけでなく、ベビーカーやペット用品などの使用時のコンディショニングまで整えていきたい」と語った。また、女性向けの製品開発も視野に入れているという。
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