アルツハイマー病の神経障害を抑制するペプチドを発見:医療技術ニュース
北海道大学は、脳内で分泌されるペプチドp3-Alcβが神経細胞のミトコンドリアを活性化し、アルツハイマー病の原因因子アミロイドβによる神経障害を保護、回復することを発見した。安価で有効なアルツハイマー治療薬の開発が期待される。
北海道大学は2023年3月31日、脳内で分泌されるペプチドp3-Alcβが、神経細胞のミトコンドリアを活性化し、アルツハイマー病の原因因子であるアミロイドβによる神経障害を保護、回復することを発見したと発表した。浜松医科大学、産業技術総合研究所らとの共同研究による成果だ。
アルツハイマー病患者の脳内では、アミロイドβペプチド(Aβ)がアミロイド前駆体タンパク質から切り出され、細胞外に分泌した後、凝集してオリゴマー(多重体)が形成される。Aβオリゴマーが神経細胞のシナプスを傷付けて神経毒性を現すことで、アルツハイマー病が発症すると考えられている。
p3-Alcβは、神経細胞に特異的な膜タンパク質Alcadeinβ(Alcβ)からAβと同じ代謝様式で産生するアミノ酸数37〜40のペプチドだ。Aβと異なりp3-Alcβは非凝集性で、脳神経細胞から脳脊髄液に分泌される。
今回の研究では、37アミノ酸のp3-Alcβ37の添加により、神経細胞のミトコンドリアが活性化することが明らかとなった。また、p3-Alcβの機能部位が9〜19番目の11アミノ酸p3-Alcβ9-19であることを特定し、11アミノ酸のペプチドが37アミノ酸のp3-Alcβ37と同様に、ミトコンドリアを活性化してAβオリゴマーによる傷害から神経細胞を保護することを確認した。
さらに、p3-Alcβ37および9-19は、AβオリゴマーによるNMDA型グルタミン酸受容体の異常活性化を介した細胞内へのカルシウム過剰流入を抑制しており、Aβオリゴマーによる毒性から神経細胞を保護することが分かった。
ラットを用いた実験では、末梢投与したp3-Alcβ9-19が血液脳関門を透過して脳に達することを確認した。p3-Alcβを末梢投与したアルツハイマー病モデルマウスは、ミトコンドリア活性が野生型マウスと同レベルまで回復し、Aβオリゴマーによる毒性から神経機能を保護することが示された。
研究グループはこれまでに、加齢およびアルツハイマー病の進行に伴いp3-Alcβが減少することを明らかにしており、今後はp3-Alcβを用いた、安価で有効なアルツハイマー治療薬の開発が期待される。同グループは、p3-Alcβの経皮投与製剤化および同製剤を用いた臨床試験への準備を進めるとしている。
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